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第三回放送 ◆ZqUTZ8BqI6 また日は沈み、次なる夜がやってくる。しかし、この世界の夜はもう二度と訪れることはない。 比喩ではなく本当に最後の夜が来る。この夜が明けた時、この世界に立つのは誰か。 いや、箱庭世界の夜は明けるのか。澄明は、まだ遥か向こうにも見えない。 『皆さま、お疲れ様ですの。ここまで頑張った人たちは、もう少し。そのためにご褒美があるですの。 何か気になりますの? けど、まずは今回死んじゃった人たちの連絡ですの』 ……ジョナサン=グレーン ……ベガ ……バーナード=ワイズマン ……オルバ=フロスト ……宇都宮比瑪 ……クインシィ=イッサー ……ガロード=ラン 『―――以上、7名が皆様の犠牲となりお亡くなりになられましたですの。ちょっと勢いが落ちちゃってますの。 早く帰りたいならちゃきちゃき殺しちゃうことをお勧めしますの。 ……次は、禁止エリアの発表ですの。 ここまで来て禁止エリアで死ぬなんて恥ずかしいからしっかりメモするべし!ですの。 禁止エリアは……A-1、B-6、E-5、F-1、G-3、G-6の六ヶ所ですの。 それじゃお待ちかねご褒美発表タイムですの。やっぱり目標があったほうがやる気も出ると思いましたので、特別に名簿をプレゼントしますの! 残りの人たち全員の名前が書いてある特注品、受けとってほしいですの。水や火からは離れて待っててくださいの。再度支給はなしですの。 残り人数といる人が分かれば効率もあっぷですの。あと……ちょっと会場に変なのが出ちゃったりもするけど、気にしないでくださいの。すぐに全部いなくなりますの。 あんなのは無視してお隣の人を撃つのに弾薬は使ってくださいですの。武器の弾薬サービスも大変ですの! ――それでは十二時間後、最後の一人として私とお会いできますよう、皆様の無事をお祈り申し上げますの。では』 そう言って、アルフィミィは通信を切る。そしてちらりと、視界の隅の机を見た。 「……あら?ですの??」 そこには、なぜか一枚だけ名簿が残っていた。 【アルフィミィ 搭乗機体:デビルガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状況:良好 機体状況:良好 現在位置:ネビーイーム 第一行動方針:バトルロワイアルの進行 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂】 備考 転送されなかった一枚は、ユーゼス(首輪の機能停止が原因)の分です。 BACK NEXT もう一つの対主催 投下順 貫け、奴よりも速く もう一つの対主催 時系列順 貫け、奴よりも速く BACK 登場キャラ NEXT 排撃者――裏 アルフィミィ Alchimie , The Other Me
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◆ 素早く、それでいて非常に巧緻に長けた剣閃が迫って来る。受け止め、受け流す。数合切り結ぶ。そして引き際に小さく、それでいて鋭く剣を振るった。空を斬る感触に臍を噛む。 再び距離を開けての対峙。長く細い息を吐く。 手ごわい。少なくとも刃物の扱いに関してはギンガナムを上回り、自身と拮抗していると言っていい。さらに、その妙を得た動きには目を見張るものもある。 黒い機体の後方のただ一点だけを睨みつけ、剣を構える。ギンガナムと他の二機が戦闘を繰り広げている場所だった。そこだけを見ている。目的は一つ。 この黒い機体を避わし、その場へ急行する。 然る後、ギンガナムにこの機体の相手をさせ、他の二人を説き伏せる。それが最善手。 下手にここで戦闘を繰り広げても意味はない。まして、ラプラスコンピューターが破損するようなことがあれば、それは致命的だ。それだけは避けねばならない。 その上で、ギンガナムとあの二人の溝が修復不能になる前に舞い戻らなければならなかった。それが課せられた課題なのだ。 「難儀な話だな……」 「あん? 何がだ?」 「いや、なんでもない」 黒い機体の膂力はギンガナムの機体とほぼ互角。速力と大きさもだ。外見的にも幾らか似通っている。恐らくはこれもガンダムと呼称される機体なのだろう。 力では相手、素早さでは自分ということになる。 全く肝心なときにいない男だ。このような相手こそギンガナムにうってつけであり、黒歴史とやらの知識も役立つというものだというのに。 それを生かすには目の前の男を突破する他ない。 隙は見えない。それでも突破せねばならない。それも速やかに、被害なくだ。心気を澄ませる。掌に刃の重さを感じ、そして、ブンドルは一陣の風となって駆けた。 「悪いが押し通らせて頂く」 「させねぇよ」 ◆ 廃れ、荒れ果てた廃墟で閃光が瞬き、光軸が飛び交う。音響がさらなる音響を導き、廃墟に似つかわしくない喧騒が辺りを支配している。 白桃と浅葱、二色のブレンパワードが織り成す連携を受け、ギンガナムは劣勢を強いられていた。 蒼い機体が視界から消える。ゾクリとしたモノを感じて、振り向き際に左拳を振るった。 頑強な金属音が響き、真っ向から接触する拳と剣。 蒼いほうが動きを変えていた。 それまでの自機の非力さを悟り、単純な押し合いには決して持ち込ませまいとする態度から、真っ向から力勝負を挑むような我武者羅さに変わっている。 二機の足が止まる。押し合い圧し合いの純粋な力勝負。ならばギンガナムに負ける道理はない。 押し切れる。そう思ったその瞬間、白桃色の機体に割って入られ、あえなく距離を取る。 「ちっ!」 蒼い機体がギンガナムを一点に押し留め、足が止まるその隙を白桃色の機体が衝いて来る。それが相対する二機の基本戦術だった。 まったくもってうっとおしい。決め手の放てぬ戦いというのはストレスが溜まるものだ。 だが、ギンガナムは笑っていた。 こういう戦い方もあるのか、という好奇の心が疼いていた。これは一対一では知りえぬ戦い方なのだ。 愉快だった。こみ上げてくる感情を抑えることが出来ない。今、確実に生きていると実感できる。そのことが堪えようもなく愉快だった。 ギム=ギンガナムは、月の民ムーンレイスの武を司り、勇武を重んじるギンガナム家の跡を継ぐべき存在として生れ落ちてきた。 それを当然のように受け入れ、幼少の頃から鍛錬に勤めてきたギムの誇りは、しかし158年前の環境調査旅行を境に裏切られることとなる。 月に帰還したディアナ=ソレルに軍を前面に押し立てた帰還作戦を主張したギムの父の言が、一言の元に退けられたのだ。 同時に『問題の解決に武力を使うことしか思いつかない者は、過去、自らの手で大地を死滅させた旧人類の尻尾である』と言葉を被せられ、ギンガナム家は軍を没収された。 以後、自害した父に代わりギンガナム家を統治することとなったギムであったが、そこには望んだものは微塵も残されておらず、虚しさだけが胸の内を占めていた。 そして、120年前、30代の終わりに差しかかったとき、ギンガナムの鬱屈が限界に達することとなる。離散していた旧臣を集め、クーデターを企てたのだ。 だが、事を起こした末路に待っていたのは無残な敗北だった。結果、形だけの裁判の末、永久凍結の刑に処され、120年の眠りに付くこととなる。 つまり押し込められ、追いやられ、爆発するも報われず、死んだように過ごしてきたのが彼の半生であった。 しかしだ。彼はここに来て生を実感していた。 幼い頃に夢見た乱世がここにある。血湧き肉踊る戦いがここにはある。心憧れた、絵巻物の中の存在に過ぎなかった黒歴史の英霊達がここには存在する。 そして、なによりも今自分は闘っている。闘っているのだ。これほど嬉しいことがあるか。 生まれて初めて、生が実感できる。生きていると思える。幼少の頃に望んだ自分が今ここには存在しているのだ。 だからこそギンガナムはこみ上げてくる歓喜の声を抑えることが出来なかった。 気持ちが高ぶる。全てがよく見える。体に力が漲っているのが実感できた。そして、それに呼応するかのようにシャイニングガンダムの出力が上昇していく。 想いを力に変えるシステム。まったく良く出来た相棒だ、と一人感心する。 相手は二機。蒼が動きを押し留め白桃が隙を衝いて来るのならば、白桃から先に始末するだけのこと。それに白桃の動きは蒼より劣る。サシの勝負で面白いのは蒼のほうなのだ。 蒼が消える。それを合図にギンガナムは猛然と突撃を開始した。 「芸がないな。マニュアル通りにやっていますというのは、アホの言うことだ! このギム=ギンガナムにぃ、同じ手がそういつまでも通用するものかよぉっ!!」 ◇ 突然、弾丸のように突撃を開始したギンガナムを見て、アイビスは考えたものだな、と一人ごちた。 ラキのバイタルジャンプは多少の揺らぎを持たせてはいるものの、死角への移動を基本としている。そして、攻撃は組合に持ち込むための剣戟が主体。 つまり、消えた瞬間に視界が開けている方向に高速で突っ込めば、攻撃に晒される可能性はきわめて低いのだ。そこを衝かれ、なおかつこちらに狙いを定めてきた。 ならばどうする? 決まっている。 (ブレン!) (……) (やるよっ!!) 今度は自分がギンガナムの打撃を受け止め、力勝負に持ち込み、ラキに隙を衝かせる。役どころが入れ替わった。ただそれだけだ。 歯を食いしばり、アイビスは受けの姿勢を取る。巨岩のような圧力を放つギンガナムを目の前に、大地をしっかりと捉え、構える。 「アイビス、受けるな! 避けろっ!!」 クルツの声だったが、遅かった。一度止まった足を動かすには彼我距離が近すぎる。 ならば、とソードエクステンションを両の手で掲げ、受ける。接触の瞬間、刀身を反らし、受け流す。受け流したはずだった。 天と地が逆さまに、視界が反転する。 巨大なダンプ、あるいは列車に撥ねられた人間のように錐揉み回転をしながらヒメ・ブレンが宙を舞う。 ブレンが大地に打ち付けられ、アイビスもまたコックピットにその身を激しくぶつけられる。意識が明滅し、追撃を予想して身を固くした。 が、次の瞬間襲ってきたのはギンガナムの追撃ではなく、クルツの怒声であった。 「馬鹿野郎! 真っ向から受け止めるなんて正気か?」 クルツの顔面越しに投影されたモニターには、ギンガナムと交戦を続けるラキの姿があった。恐らくは追撃をかけられる前に割って入ってくれたのだろう。 結局はまだ足を引っ張っている。その口惜しさが拳を固くした。 「うるさい。ラキは同じブレンパワードで止めてる。なら、私だって……」 「お前には無理だ。あれはお前には向いてねぇ、俺にもだ」 アイビスの抗弁をクルツは軽く受け流す。 そう。アイビスとラキでは受け方が違う。というよりラキの受け方が少々特殊だった。 通常の受けは相手に押し負けぬように足場を、土台をしっかりと安定させて受け止める。 対して、ラキはその場で受けようとせずに前に出る。受けるというよりはぶつけに行っていると言ったほうが正しいのかもしれない。 相手の一番力が乗るところでは決して受けず、前に出ることで打点をずらし、力を半減させ、自身の前に出る力をそこに上乗せさせる。言葉にすればそんなところだろう。 だが、それでようやく四分六で押し切ることが出来る。真っ当な受け方では勝負にならない。 それに互いの足が止まれば、やはりギンガナムの膂力がモノを言う。だから今モニター向うのラキは、受けの後瞬時に弾き、距離を置く戦い方に戻していた。 一機でギンガナムに抗うには、そうする他はない。 (ブレン、悔しいね……あいつらには出来て、私らには出来ない) 俯き、ブレンの内壁に添えた手にギュッと力を込める。 悔しかった。他人には出来て、自分には出来ない。それは落ちこぼれと言われているようで悲しい。悔しい。そしてなによりも自分の不甲斐なさは腹立たしかった。 そんな思いがその手には込められている。 「アイビス、ラキを羨ましがるんならお門違いだ。だが、そうじゃねぇ。そうじゃねぇだろ? ラキにはラキのブレンの扱い方がある。だったらお前にはお前なりのやり方ってもんがあるだろうが。違うか?」 「私なりの……やり方?」 見透かしたように掛けられた声に驚く。考えたこともなかった。 人を羨むのではない自分なりの乗り方。スレイにでも、ラキにでも、誰に対するでもない自分なりのやり方。こんな何でもないことなのに、考えたこともなかった。 No.1に対するNo.4。負け犬という別称。流星という不名誉な字。それらに引け目負い目を感じてきたのは、知らず知らずのうちに誰かに対する自分を意識していた証なのかもしれない。 「クルツ」 「ん?」 「ありがと。ただのスケベ親父じゃなかったんだ」 「おいおい、親父はよしてくれ。俺はまだ二十代だぞ」 「そっちに反応するんだ」 軽口を叩き、笑い、顔を上げる。目にキラリと光が灯る。また一つ憑物が取れた。そんな顔だった。 僅かに見たジョシュアの戦い方は、的を絞らせずに翻弄し攻撃をことごとく避けるものだった。ラキの戦い方は、避けることよりも受けることに重点を置いた戦い方だ。 この二人ですらアンチボディーの扱い方が大きく違う。どちらかが正解というわけではない。アンチボディーと自身の経験との折り合いを付けた場所が、そこというだけなのだ。 ならば自分は……いや、自分とブレンの戦い方は―― (……) (ブレン?) (……) (うん。わかった。やってみよう!) いつからかブレンの声が聞こえるようにもなっている。普通に会話も出来る。そのことに未だ気づかぬまま、アイビスは声を張り上げた。 「いくよ、ブレン!!」 視界の先には、ギンガナムに押しやられ、ついに体勢を崩したネリー・ブレンの姿がある。 そこへ跳び、ネリー・ブレンの真横にジャンプアウトした。叫ぶ。 「ラキ、ブレン同士の手を合わせて!」 「手を?」 「早く!!」 ギンガナムとの距離は既に幾許もない。そんな中、二機のブレンパワードが手をつなぎ、胸を張る。 次の瞬間に顕現するのは二体のブレンパワードが張り巡らすチャクラの二重障壁――ではなく、ただ一重のチャクラシールド。 しかし、二つのチャクラが混ざり合うそれは、強固な分厚い壁である。打ち付けられた拳とチャクラの間で火花が散り、拳を弾かれたギンガナムの姿勢が仰け反るような格好で崩れた。 その瞬間、ヒメ・ブレンは飛び出し、真っ直ぐに距離を詰める。 「ギンガナム、あんたは私の行為を偽善だと言った。でもね、人の為の善と書いて偽善と読むんだ!! なら、私はジョシュアのためにあんたを討つ!!!」 体勢が整う前に畳み掛けると決めていた。擦れ違い様にソードエクステンションによる横薙ぎの一閃。 しかし、ギンガナムもさすがと言うべきか、体勢が不完全ながらも咄嗟にアームカバーを構える。 固い金属音が鳴り、受けたギンガナムの体勢が完全に崩れ、仰向けにひっくり返った。この好機、逃す手はない。 「ラキ、合わせるよ! やり方はブレンが教えてくれる」 「ブレンが? ……ひっつく? くっつくのか?」 二機で小規模なバイタルジャンプを繰り返し、翻弄し、体勢を立て直させる隙は与えない。ラキが次の瞬間何処に現れるのか、それはアイビスにもわからない。 しかし、決め手を放つ瞬間、どこに現れ、どうすれば良いのか、それはブレンが全て教えてくれた。 「1・2・3」 タイミングを計る。体勢の崩れたギンガナムの右後方。ドンピシャのタイミングで二機はそこに現れた。 背中が合わさる。ブレンバーとソードエクステンションが、鏡合わせのように突きつけられる。その動きには寸分のズレさえも存在しない。 「チャクラ」 「エクステンション」 「「シュートオオオォォォォオオオオオオオオオオ!!!!」」 二つの銃口に光が灯り、濃密で重厚なチャクラの波が放たれる。巨大な破壊の力を携えたそれが、堰が決壊し氾濫した濁流の如くギンガナムへと猛進していく。 その光景の最中、突如として覇気に満ちた笑い声が大地を震撼させた。 「ふはははは……。これをおおぉぉぉ待っていたっ!!」 そう。ギンガナムはこのときを待っていた。かつて相対した男が最後に放つはずだった一撃。 それに酷似したこの一撃を真っ向から打ち破ることには二重の意味がある。すなわち、この戦いとあの男との戦い、二つの勝利。 「貴様らが七色光線ならばぁぁ、小生は黄金の指いいいぃぃぃぃいいいいいいいい!!!」 押し包み、瞬く間に呑み込まれて消えるその刹那、ゆらりと起き上がったシャイニングガンダムは左腕を無防備に突き出した。その指間接が外れ、隙間から染み出した液体金属がマニピュレーターを覆い、発光。そして―― 「喰らえっ!!! 必いいぃぃぃ殺っ!!! シャアアアァァァイニングフィンガアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアア!!!!」 その光り輝く左腕が荒れ狂うチャクラの波に真っ向からぶつかった。 真っ直ぐに伸びたチャクラエクステンションが、ギンガナムがいる一点で遮られ四方に拡散する。拡散した幾筋ものチャクラのうねりは大地を抉り、暴れ、阻むもの全てを破壊する。 だが、それで終わりではない。三者の激突は未だ続いている。チャクラエクステンションはシャイニングフィンガーただ一つで抑えきれるほど甘くはない。 強大な圧力に押さえ込まれ、ギンガナムは前に出ることが出来ない。いや、むしろ押されている。 重圧を一点で受け止める左腕は断続的に揺れ、ぶれ動き、機体を支える両脚は爪のような跡を残しながら徐々に後ろへと押し流され、爪跡はチャクラの濁流に呑まれて消え去る。 このままでは押し切られ、呑み込まれるのは時間の問題なのだ。だがしかし、ギンガナムに諦めの色はない。あるのはただ狂気的とも言える喜色のみ。 「ぬううぅぅぅぅぅぅっ!! 見事! まさに乾坤一擲の一撃!! 実に見事な一撃よ!!! だがなあぁぁぁっ!!!! この魂の炎! 極限まで高めれば、倒せない者などおおぉぉぉぉっないッッッ!!!!!」 押し流され続けるシャイニングガンダムの足が止まる。エンジンの出力が上がり続け、背面ブースターが限界を超えてなお唸りを上げる。 「シャイニングガンダムよ。黒歴史に記されしキング・オブ・ハートが愛機よ。お前に感情を力に変えるシステムが備わっているというのならああぁぁぁっ! 小生のこの熱き血潮!! 一つ残らず力に変えてみせよおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」 そのギンガナムの雄叫びを合図に、それは始まった。 機体の色に変化が生じる。白を基調としたトリコロールカラーから、色目鮮やかな黄金色へ。そして、機体を構成する全てのものが眩く発光を始め、闇夜を切り裂くチャクラ光の中に黄金が浮かび上がる。 変化は外見のみに留まらない。充溢する気力を喰らい天井知らずに上がり続ける出力は、計測器の針を振り切り、それを受けた推力は前進を可能にしていたのだ。 「ふはははは……このシャイニングガンダム凄いよ! 流石、ゴッドガンダムのお兄さん!!」 爆発的なスラスター光を背に感嘆の声を上げ、七色の輝きの中に飛び込んだギンガナムは激流に逆らい、遡上を始める。 その様は鯉の滝登り等という生ぬるいものではない。天を衝くが如き勢いと圧力を持って遡上し、そして、金色の光がチャクラの波を衝き抜けた。 「なっ!」 阻むものを失ったギンガナムの突進は、限界まで引き絞られた矢が飛び出すようなもの。 弾ける勢いでヒメ・ブレンの頭部を掴んだギンガナムは一筋の閃光となり、建ち並ぶ廃墟の群を物ともせずに突き破る。そして、その終着でヒメ・ブレンを天高く掲げ―― 「絶っ好調であるっ!!!!」 爆発。轟音を残して頭部を粉砕されたヒメ・ブレンが崩れ落ちる。同時に背後で異音。俊敏に反応し、切り結び、同時に飛び退いた。 ◇ 飛び退き、距離を取ったネリー・ブレンが瓦礫の海に足をつける。息を弾ませ、体を覆う疲労感にラキは顔を歪ませた。白い肌には赤み指し、紅潮している。 虚を衝いたはずの視覚外からの攻撃にも対応してみせる油断のなさ。加えて、奴の言をそのまま信じるのならば、あの闘争心がそのまま反映されるシステム。 つくづく厄介だというのが、率直な感想だった。 そう考えて、ふと自分らも似たようなものか、という思いを抱いた。アンチボディーはオーガニックエナジーを糧に動く。そこには人の放つものも含まれているのだ。 ならば、自分やアイビスの感情もまたブレンに力を与えているのだろう。そう思った。疲労感を押し隠し、気を張りなおす。 (ブレン、すまない。大丈夫か?) (……) (よし) 心を落ち着け、ブレンに声をかけると立ち上がらせる。その姿を前にギンガナムから通信が飛んできた。 「ほう。まだ戦う意志を失わぬか……見上げた根性と誉めてやろう。どうだ? ギンガナム隊に入らぬか?」 「悪いがお断りだな」 「ならば死に物狂いで戦うことだな。それにここで小生を倒せばジョシュアとやらの魂も救われるかも知れぬしなぁっ!!」 「ジョシュアはそれを望まない。人には戦いなど必要ないんだ」 本心だった。ジョシュアの弔いの為と思い定めて戦いはしても、どこか違うという思いは常について回っている。 不意にギンガナムが動く。早い。咄嗟に拳をブレンバーで受け止める。 「それは違うな。人は己の内に闘争本能を飼っている。 それを解き放つために戦いは必要なのだ! その為にこのような場が用意されている!!」 「本能の赴くままに戦い続ける姿のどこに人間らしさがある!」 言葉を返し、弾き、距離を取る。早いがついて行けないと言う程ではない。 揺れ動き、翻弄させるような動きを取りながら、ギンガナムが言葉を吐く。その口調には自身を正しいと信じて止まない傲慢さが込められていた。 「ならば聞く! 水槽の中で飼われている魚のような生のどこに人間らしさがある!!」 「どういう意味だ」 「外敵もなく、餌も十分に与えられ、安全で平和な住みやすい環境。それを世界の全てだと思い込んでいる。まるで飼われた魚の様ではないか。 だがなぁ、人間はそのような環境に息苦しさを覚える。だからこそ、ディアナは地上へ帰ることを望んだ。 だからこそ、このギム=ギンガナムは戦い、戦乱をもたらすのだ。人として生きる為になぁっ!!」 突如動きが変わり、強烈な一撃がラキを襲う。それをブレンバーで受け流し、攻撃に転じながらラキは反論を返す。 ギンガナムの言を受け入れることはジョシュアの、人として生きようとした自分の生き様を否定することだ。それは、死んでも受け入れることはできない。 「それは違う。確かに人は生きるために戦うことがある。憎しみにまみれて道を見失う者もいる。 だけど、それだけが人じゃない。それを私はジョシュアから、人から学んだ」 「だが、貴様は戦っているぞ!!」 受けたギンガナムが言う。シャイニングガンダムとネリー・ブレンの双眸が、ギンガナムとラキの眼光がぶつかり火花が散った。 巨大な重圧を伴ってギンガナムは圧し掛かってくる。そのギンガナムの言葉には迷いがない。だからこそ強く、なによりも危険なのだ。気を抜くと押し切られそうになる。 「そうだ。私は戦っている。私はメリオルエッセ……負の感情を集めるだけの働き蜂。所詮、人にはなれない。だから――」 唇を噛み締めて言う。渾身の力で押し返し、再び距離を取ったところで泣き出しそうになり、思わず言葉を区切った。 人にはなれない。それはある意味では分かっていたことだ。いくら憧れ、恋焦がれようとも、蛾に生まれついた者が蝶になることは適わない。 同じだ。私もメリオルエッセに生まれついたからには、人になることなど適わないのだ。 分かっていた。分かっていたが、どこかでそれを受け入れてない自分がいたことは、確かだった。 それなのに、今自分の言葉で肯定し、受け入れてしまった。それがどうしようもなく悲しい。 でも、それよりも受け入れ難いことが存在する。だからこそ泣き出したい思いで受け入れた。 人は私とは違う。私の周りにいた人は、負の感情を集めるためだけに作られた私に、それだけが人ではないと教えてくれた。 そんな人間が、憧れ恋焦がれた人間が、戦いを自ら望むような者であって良いはずがない。 私の傍にいた人が与えてくれたぬくもりは、そんな人からは決して得られないものだ。そう信じたい。 「だからこそ、貴様は私の手で止めてみせる!!」 「それは結構。だが、できるのか? このギム=ギンガナムをぉ!!」 切り結び、跳び、かわし、攻め、守る。目まぐるしく入れ替わる攻防ではあったが、バイタルジャンプを縦横無尽に駆使して、ギンガナムの動きをようやく幾らか上回れるという状態だった。 初手を合わせたときから比べ、ギンガナムの気力は満ち溢れている。それに伴ってシャイニングガンダムの基礎能力が桁外れに上がっていた。 動きが殆んど互角でも、力では圧倒されている。単機ならまだ渡り合えるという自負があったが、交戦能力を失った味方を二機も抱えていた。それは決定的に不利な要素なのだ。 それでも方法はあった。死ぬ気になればやることができるただ一つの方法が。 (……) (ブレン、落ち着け。仇は私が討たせてやる。それと私に遠慮はするな) (……) (恍けるな。お前が私を気遣ってくれているのは分かっている。でも、それじゃ駄目なんだ) 分かっていたことだ。ネリー・ブレンが自分を気遣い、自分の周辺に集まり渦巻いている負の感情のオーガニックエナジーを主として動いていたことは。 それはラキの負担を減らすためだろう。それに造られた生命であるラキのオーガニックエナジーは、自然の生命に比べると驚くほど希薄で弱いのだ。だがそれでも―― (……) (いいさ。ここで全て吸い尽くしていけ) (……) (すまないな。ありがとう) ブレンの説得を終え、しかし、息をつく暇もない。攻防は続いているのだ。 視界の端でギンガナムを捉えつつ、隙を見て通信をヒメ・ブレンへと試みる。 頭部を失ったヒメ・ブレン相手に通信が繋がるか不安はあったが、程なくそれが要らぬ心配だったということが証明された。通信は繋がった。 「アイビス……無事か?」 「うん。私は大丈夫。でもブレンが……ブレンが私のせいで……」 ギンガナムの攻撃を受けるその一方で盗み見たアイビスの表情は暗く沈んでいる。 アンチボディーは半分機械半分生物という特殊な存在だ。頭部を失うということは死を意味している。 それを自分のせいだと思い込み、責任と重荷を背負い込んでいるといった感じだった。その姿に一瞬頬を緩ませる。 やはり人間は優しく暖かいのだ。ブレンはきっとそんな人の優しさに魅かれたからこそ、人を必要とする体に生まれたのだろう。そう思った。 その一方で、無理だろうなとは思いつつ慰めの言葉をかける。 「気にするな。お前は精一杯やった。だれもお前を責めやしない。お前のブレンもきっとお前を恨んでやしない。 そして、これから起こる事もお前のせいではない。だから、気に病まないでくれ……そうなると、私は悲しい」 「えっ?」 伏せていた顔が上がるのを目の端が捉えた。バルカンを二発三発とかわしつつラキは言う。 「……私のブレンを頼む。こうみえても寂しがりやなんだ。きっとお前の力になってくれる」 「ラキ、あんた……」 「ジョシュアが最後に守った者を私も守れる。それだけで十分だ」 「違う。違うよ……ラキ」 顔を左右にふるふると振るわせるアイビスを無視して、言葉を続ける。 自分の声が湿り気を帯びていくのに辟易しながらも、どうすることも出来ない。 「アイビス、会えてよかった」 「ラキ、ジョシュアが本当に守りたかったのは私じゃない! あんたなんだ!! だから、だから一緒に生き延びよう……二人で生き延びる道もきっと見つかるからっ!!!」 耳に飛び込んできた声にハッと目を見開き、俯いた。出来ることならそうしたかった。でも目の前の現状はそれを許すほど甘くはない。 だから、ラキは一度だけギンガナムから視線を外し、アイビスを見て声を掛ける。努めて明るく、精一杯の笑顔で。 「本当はもっと落ち着いて話がしたかった。でも時間がない。アイビス、お別れだ」 「ラキ!!」 「盛り上がってるとこ悪いがな。お前らは死なねぇよ」 「「クルツ!!」」 突然割って入った声にラキとアイビス――二人から驚きの声が上がった。そんな二人に構うことなくクルツは飄々と言葉を繋げる。 「ラキ、お前がろくでもないことを考えてるのは分かってる。でも悪いな。こいつは俺が貰う。お前はアイビスと行け」 「何、無茶なことを言っている。その半壊した機体でこいつを押さえられるはずがないだろう」 「無理だよ、クルツ。あんた一人ならまだ逃げられる。機体が動くのなら逃げて」 「うるせぇっ!!! うるせぇよ……行きたいんだろ? 本当はそいつと行きたいんだろうが!!!」 「それは……」 言い澱み、覚悟が揺らぐ。 諦めたはずの先を突きつけられ、そこにいる自分を連想してしまい、生きたいという衝動が膨らむ。思わずクルツの言葉に縋りつきたくなり、浅ましいと自分で一喝する。 そんな心の機微を見通してか、クルツは言葉を畳み掛けてきた。 「行けよ。とっとと行っちまぇ! いいか? 勘違いするんじゃねぇぞ。俺はお前の代わりにこいつの相手するんじゃねぇ。誰かの代わりなんて真っ平ごめんだ。 俺は俺が好きでこいつの相手をするんだ。こいつは俺の我侭なんだよ。あいつと一緒に行くのはお前の我侭だ。だったら、我を張れよ。押し通せ。 会ったときからお前は我侭尽くしだったんだ。いまさら変に遠慮なんてしてんじゃねぇっ!!」 「しかし、お前は……」 「俺は俺の我を通してここに残る。お前はお前の我を通してあいつと行く。それで全部まとめてオールO.K。円満解決。大団円だ。違うか? 違わねぇだろ。 分かったか? 分かったら、さっさと行っちまえよ。お前らがいると邪魔なんだよ。気になっちまって、切り札が切れねぇ」 「ならばそのカード、小生が切りやすくしてやろおっ!!」 「ッ!!」 クルツに気を取られすぎていた。気がつけばギンガナムが間近に迫っていたのだ。 近いっ! 近過ぎる。回避も何も、全てが間に合わない。直撃? 当たるのか? くらうのか? くらえば―― 豪腕を目前にぞっと全身が怖気立ち、肝が冷えた。思わず目を閉じ、首を竦める。身を固く小さくして来るべき衝撃に備える。 しかし、その瞬間はついぞ訪れなかった。変わりに怒声が飛んで来る。 「何やってんだ! 早く行け!! ちんたらしてんじゃねぇ! 今すぐ走れ!!」 恐る恐る開けた視界に、いつの間に忍び寄ってきたのか、ギンガナムに背後から組み付くラーズアングリフの姿が映しだされる。 「ク……ルツ?」 「さぁ行け! 行くんだ! 行って、俺の代わりに二人であの化け物に一発かましてこい……頼んだぞ」 目が合い、気圧された。その目には一本の筋が通った、ぴんと背筋の伸びた胸に迫る何かがある。 それに抗おうと胎に力を込めたが、一度揺れた覚悟はそれを押し返すまでの強さを持ってはいなかった。 乾いた口が動く。何度か唾を飲み込み、何度も言葉を喉元で押し殺したその口は、しかし最後には辛うじて聞き取れる程度の声で喉を震わせた。 「……すまない。頼む」 「いいってことよ。任せろ」 陽気な、いつもと変わらぬ声が耳朶を打つ。悲壮さなど微塵も感じさせない、ちょっとした用事を引き受けるような、そんな声だった。 クルツとギンガナムに背を向け、ネリー・ブレンが跳ぶ。 決めた以上、戸惑ってはならない。速やかに動かなければクルツの覚悟に水をさすことになる。それが、似たような覚悟をほんの少し前まで決めていたラキには、痛いほど分かっていた。 ジャンプアウト。物言わぬヒメ・ブレンを抱え上げる。アイビスが文句を言ってきた。その気持ちも、やはり痛いほどに分かる。 だがそれに耳を貸すわけにはいかない。例え恨まれようと構わない、とラキはその場からの離脱を開始する。 普通に長距離のバイタルジャンプを行う余力は、もう残されていなかった。 ◆ 赤い戦車のような人型機動兵器が投げ飛ばされ、瓦礫の海に埋没した ラキとアイビスが離脱を開始して数分。ずぶずぶと上下逆さに埋没していく機体の中、クルツは一人ぼやく。 「やれやれ、こんなつもりじゃなかったんだけどな。こういうのを親心って言うのかね」 本当に初めて会ったときから世話のかかる奴だった。意見は食い違うわ、一度決めたら梃子でも動かねぇわ、自分勝手に動き回るわで、本当に面倒ばかり掛けやがる。 でも気持ちのいい奴らだった。 にしてもついてねぇな。こんなとこに呼び出されてまでして、俺、何やってるんだろうな……。 「……まぁいいさ。悪かぁねぇ」 がばっと起き上がり、コンクリートの破片を跳ね除けながら呟いた。 ああ、そうさ。悪かぁねぇ。女を守って死ぬ。男として最高の死に様じゃあねぇか。あんたもそんな気分だったんだろ? ジュシュア=ラドクリフ。 ふぅ~っと長い息を吐く。横目でちろりとこれから命を賭ける相手を見やり、リニアミサイルランチャーを突きつける。 「悪いな、大将。俺の我侭に付き合ってもらってよ」 「貴様がその半壊した機体で何をするのか興味があってな。だが、空の銃では小生は倒せぬ。そこのところは分かっているのか?」 クルツが最も懸念していたこと、それは無視をされ二人の後を追われることだったが、どうやらその心配はなさそうだった。人知れず胸を撫で下ろす。 敵さんは、こちらの手札に興味津々なご様子。ならどうすればいい? 簡単だ。挑発して好奇心を呷ってやればいい。そうすればもう少し時間を稼ぐことが出来る。 「知ってるか? プロってのは、弾を撃ち尽くしても最後の一発ってのは取っておくもんだ。本当にどうしようもなくなっちまったときに自分の頭を撃ち抜く為にな」 「下らんな。己の頭を自ら撃ち抜くぐらいなら、その一発で相手を倒すことを考えるべきだ。 最後まで相手の喉下に喰らいついて初めて一人前の兵士と言える。貴様もそうだろう……違うか?」 「そういう考え方もありっちゃありなんだが……。勿体つけといて悪りぃんだけど、実は弾なんか残っちゃいねぇんだな、これが」 リニアミサイルランチャーを手放す。瓦礫で跳ねたそれが乾いた音を立てた。 からかわれたとでも感じたのかモニター越しの表情が怒り、睨みつけてくる。想像以上に単純な奴だ、とほくそえんだ。話術では負ける気がしない。 「短気は損気。そう怒りなさんなって……。代わりにギンガナム、あんたには別のもんをぶつけてやるよ」 「ふんっ! 貴様のごとき雑兵の命一つで小生を止められると本当に思っておるのか?」 完全に臍を曲げたらしい男を前に急にクルツの目つきが変わった。 「馬鹿言っちゃいけねぇな。あんたに生き残られちゃ、せっかくのお涙頂戴シーンが台無しだ。 それになぁ、お前さん自分のこと買いかぶり過ぎだ。こちとら戦争屋。弾なんざなかろうが、手前を倒す手段なんざいくらでも思いつくんだよ。塵一つ残さねぇから覚悟しろい」 「吠えたな」 「吠えたさ」 売り言葉に買い言葉。睨み合い。互いの鼻が白み。直ぐに二つの哄笑が廃墟に木霊し始めた。カラッとした笑い声が大地を包む。 「面白い! ならばきっちり殺してみせろよ!!」 「上等だ! そろそろ行くぜ!!」 時間は十分とは言えないが稼いだ。もう巻き込む心配も多分ない。あとは俺が上手くやれば万事オッケー、全ては上手く収まる。 シザースナイフを抜き放ち、握り締める。 接近戦の不利は百も承知。格闘戦における技量の低さは自覚していた。だがそれでもラーズアングリフに残された武器はそれしかない。 「来いっ!!!」 腰を低く落とし、ギンガナムの声を合図に猛然と突進を開始する。敢行したのは命がけの接近戦。 だが、それは余りにも馬鹿げた行為だった。ただでさえ鈍重なラーズアングリフである。脚部を損傷した現在、ギンガナムと比べるまでもなく動きは鈍重を極めている。 動きは鈍く、勢いも無ければ、切れも伸びも無い。ギンガナムから見れば凡庸も凡庸。ただ愚鈍なだけの特攻としか映らなかった。 ゆえにギンガナムは激昂した。軽んじられた。甘く見られた。そういう思いが有り、自尊心についた傷が感情を刺激したのだ。 「どんな隠し玉があるのかと思えば、ただの特攻とは……実に下らん!!」 ギンガナムが動く。ラーズアングリフの鈍重さに比べ、その動きは遥かに素早い。 「小生を愚弄した罰だ!! DNAの一片までも破壊しつくしいいぃぃぃいいいい、鉄屑にしてやるっ!!!」 間合いが瞬時に潰れる。ギンガナムが放った手刀は、頑強な装甲の継ぎ目を狙う一突き。 右胸を貫かれるその寸前、クルツはシザースナイフを投げ捨てた。右腕で逃さぬようシャイニングガンダムを抱きしめる。 「野郎に抱きつくなんざ趣味じゃねぇが……この時を待っていたんだよ!」 「何だこれは! この馬鹿げた熱量は!! 貴様ぁ、一体何をした!!!」 キーボードに指を滑らせ、一つの文字列を叩き込んだ。それは祈祷書の『埋葬の儀式』の一節を捩ったシャドウミラーの自爆コード。 その真髄は機密保持の為、後には何も残さない絶対の破壊。文字通り全てを無に帰す力。 即ちコード名―― ――Ash To Ash―― 「別に大したことなんざしてねぇよ。ただ土に還るだけさ。俺もお前もなっ!!」 勝利を確信し、誇らしげに笑ったクルツを光の海が包み込んだ。 →Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―(4)
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護るために ◆tgy0RJTbpA 背の高い木々が乱立する森林がある。 その合間を縫うように陽光が差し込み、薄く森の中を照らしている。 光を受けるのは木々だけではない。 地にひざまずくようにしている緑色と白に塗り分けられた巨人が光の下にあった。 腕の外側、折り畳まれたアームが特徴的な巨人は森林に影を投げかける。 その影に隠れるように立っているのは黒髪の少年だ。少年は腕を震わせ、巨人を殴りつける。 「ざけんな……」 呟くような声だが、力ない声ではない。どこかから聞こえる川音を除けば、他に音は聞こえない。 風さえも、吹いてはいなかった。 「ざけんな、ざけんなッ!」 少年は巨人に思いをぶつけるかのようにして口を開く。まるで、呪詛の言葉を紡ぐようだ。 夢だと思いたかった。悪夢だと信じたかった。 だから、もう一度巨人に拳を叩きつける。返ってくるのは鈍い音と痛みだ。 あくまでこれは現実として、少年――神名綾人にのしかかる。 逃げ出したかった。だが、それは容易ではない。確かな戒めが、ひんやりと首に巻きついているからだ。 常に死神の鎌を首に当てられている。そんな感覚が、現実になったようだ。 とてつもなくリアルだった。 以前、ドーレムによって現実とは違う世界に送り込まれたことがある。 あのときは、リアルではなかったために心を掻き毟られた。だが、今は正反対だ。 あまりにも鮮明なリアリティが、綾人を掻き乱している。 不安だった。そして、その不安を共有出来る人はいない。自分は、一人ぼっちだ。 綾人は思う。朝比奈もこんな気持ちだったのだろうか、と。 そのことを考えた瞬間、綾人は弾かれたように顔を上げる。現実を恐怖するあまり、大切なことを忘れていた。 「朝比奈……」 呟くと、背筋がゾッとした。恐れが原因ではない。ここにいない人のことを想っての震えだ。 今、自分はここにいる。たった一人で、ここにいる。 ならば。 朝比奈浩子は、今も一人で震えているのではないだろうか。 あの部屋でたった一人、孤独と恐怖に押しつぶされているのではないだろうか。 自分たちの住んでいた世界が偽りの箱庭だったこと。心を許せる人がいないということ。 そして――青い血が流れているということ。 知らない世界で、そんなことを心に燻らせ、震えているのではないだろうか。 綾人は巨人に叩きつけたままの手を離し、見上げる。 こんなことをしている場合ではなかった。早く帰って、朝比奈のところに行かなければ。 生き残らなければならない。決めたのだから。必ず護ると、決めたのだから。 だから、戦おう。生き残って、元の世界へ帰ろう。 「護るんだ。俺が、朝比奈を」 力を込め、そう呟く。自分自身を鼓舞するために。決意を染み込ませるように。 「やってやる。やってやるよ……!」 綾人は巨人に乗り込む。護るために、戦うことを決意して。 【神名綾人(ラーゼフォン) 搭乗機体:アルトロンガンダム(新機動戦士ガンダムW Endless Waltz) 現在位置:B-5森林地帯 パイロット状態:健康 機体状態:良好 第一行動方針:帰るために他の参加者を探し、殺す。 最終行動方針:ゲームに乗る。最後まで生き残り、元の世界へ帰る】 【初日:12 30】 BACK NEXT 赤い彗星 投下順 人とコンピューター 仮面の舞踏会 時系列順 ホワイトドール BACK 登場キャラ NEXT 綾人 黄色い幻影
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機体がビルの側面に叩きつけられるのをすんでのところでアムロは回避する。 スラスターを、オーバーヒートを起こさんばかりに放出し、どうにかF-91を破壊から遠ざける。 「これが……ノイ・レジセイアの力だというのか……!?」 圧倒的なほどの強さだった。 今、アムロ達は五機がかりでレジセイアに立ち向かっている。 だというのに、『戦っている』という実感すらなかった。 獣のような読めない動きと異常なまでの俊敏性。そして異常過ぎるスラスターの出力。 直撃を当てることはおろか、小技がかすることさえまれ。 だというのに、当たっても通じない。 しかも、再生機能までついている。 「ハハハ……それが……完全の欠片か……」 「言っている意味が分からないな!」 「分かる必要もない……」 蒼い孤狼のスラスターの横の姿勢安定用ウィングが展開。 鈍重に見える外見からは想像も出来ない程のスピードで疾走を始める。 先ほどシャギアがへし折ったはずの角が再生し、赤熱化だけに留まらず電光を纏い振り上げられる。 目の前で戦っていたフォルテギガスが、その目標だった。 回避が間に合わない。さりとて、援護も間に合わない。 フォルテギガスが腰をおろし、その場で姿勢制御用のフィンを展開した。 そのまま、角を避けて体当たりを仕掛けるつもりだとアムロには分かった。 大型機同士の大質量が衝突し、衝撃波で空気を震わせる。 だが、こう着の後吹き飛んだのはフォルテギガス。 全身から脱落した装甲を周囲にふりまきながら、車か何かにひかれた人のように吹き飛び大地を転がる。 身長は、フォルテギガスは蒼い孤狼の1,5倍もあるにも関わらずだ。 だというのに、フォルテギガスが痩躯の人間、蒼い孤狼は大型トラック。 それだけの差があった。 「脆い……無限ではない……!」 蒼い孤狼の背後に、バイタル・グロウブの僅かな歪みによる光が洩れた。 アムロもそれに合わせて、ヴェスバーを牽制に発射する。 重力を感じさせない軽やかな動きで何度となくアイビスのブレンパワードが切りつける。 着弾するヴェスバーをすり抜けるように何度も何度も。 蒼い孤狼は、その中笑っていた。 蒼い孤狼の左腕が、消える――いや、こちらの認識を超える速度で振るわれる。 バイタルジャンプによる回避は間に合わない。アイビスのブレンが一直線にビルへと激突した。 「ブレンパワード……似ているが……我ほど完全ではない……」 蒼い孤狼には、寸分のダメージも感じられない。 小柄なブレンやガンダムのそよ風のような攻撃では、孤狼という大木を揺るがすことはできない。 蒼い孤狼が、吹き飛ばしたブレンをカメラ追った隙に、 ブレンとガンダムより大きなサイバスターと凰牙が格闘を仕掛ける。 「中尉! あなたはもういないんですかッ!?」 カミーユの言葉をあざ笑う蒼い孤狼。 二人に追撃する形でアムロも操縦桿を前に倒しF-91を動かした。 ギンガナムが遺したビームソードを引き抜く。 「立って、ブレン!」――ブレンも、アイビスの言葉を受けて傷ついた体を動かし、飛び込んでいく。 ニュータイプのアムロには、ブレンの痛みが分かった。 フォルテギガスも、フィガをツインブレード状に変えて切りかかった。 五機一斉の集中格闘攻撃。 「とどけぇぇぇぇ!!」 アイビスの声が、鼓膜を打つ。 回転し唸りを上げる凰牙の拳が蒼い孤狼の顔を。 フォルテギガスのストームブレードが蒼い孤狼の左肩を。 サイバスターのディスカッターが蒼い孤狼の右腕を。 ブレンのソードエクステンションが蒼い孤狼の背中を。 そして、F-91のビームソードが蒼い孤狼の脚部を。 「ハハハ……ハハハハハ……! それが……銀河を変える……力……!? 」 音無き鋼鉄の咆哮。 全身を抑えつけられているのを無視し、体を振るう。 振り回される腕。開口した肩。両腕にある無骨な5連チェーンガンとハンマー。 全身の火器がまとめて火を噴いた。 花火がさく裂したように昼間の明るさに変わる。 「ぐああ……っ!」 千差万別、古今東西の別種の機体が、一様に吹き飛ばされる。 まずい。最初は疲れがなくかわせていたが、全員少しずつ動きが鈍り被弾が増えてきている。 もし誰かが撃墜されれば、即座に詰みだ。 五 対 一 だからこそできている拮抗状態は、あっさりと崩れ去るだろう。 「―――あれさえ決められれば……」 口から自然と漏れる呟き。 ギンガナムを倒したあれを決められれば、おそらく勝ち目も見える筈だ。 今は攻撃を気ままに受けてくれている。 だが、先ほどのシャギアのライアットバスターから分かるように、 おそらく危険な攻撃となれば回避しようとするだろう。 そうなれば、あの異常なスラスターなら緊急回避もたやすいはずだ。 フォルテギガスとサイバスターが何度も果敢に突っ込んでいく。 「弟を殺したことを……後悔するがいい!」 「やっちまえ、シャギアさん!」 「中尉……もう、あなたがいないというなら俺は躊躇しない!」 勝ち目が見えぬまま、突っ込んでいく三人。 アムロは、自分が一歩引いてしまっていることを自覚した。 あれほど我武者羅に突撃できない。冷静な戦略が、などと言いながら下がってしまう。 今、一番エネルギー消費や機体の新しい消耗が少ないのはアムロだろう。エネルギーは8割近く残っている。 ゴッドフィンガーは一撃限りの必殺技だ。気力、エネルギーともにほぼ限界まで消耗してしまう。 つまり、事実上戦線離脱は確実。 だからこそ、アムロは決め切れない。 もしも自分が外せばどうする? それこそ、敗北の決定的な一歩を作ってしまう。 敗北できない戦いなのだ。うかつなことはできようもない。 「飛んで、もっと、もっと――!」 何度もはじかれる二機への追撃を許すまいと、アイビスのブレンが距離を詰める。 その動きは、さながら戦闘機の妖精だ。高速機動と瞬間移動を組み合わせ、一定の距離を保ち蒼い孤狼を翻弄している。 シャアとともに初めて会った時の弱気さと、自信のなさが嘘のようだ。 アイビスも必死に、ひたむきに、ブレンと力を合わせ眼前にある最悪の現実と戦っている。 下手にもらえばそこで終わるというのに、そのことを恐れずに。 ―――俺は、どうだ? アイビスと似たり寄ったりの状況だというのに日和ってはいないか。 戦いに雑念を混じらせれば死ぬだけ。なのに、これはどういうことなのか。 「……届かない……足りない……」 ついに、アイビスが被弾する。 『く』の字に体を降り、吹き飛んで行くブレン。 しかし、それが大地に激突するより早く、凰牙が拾い上げた。 「ごめんなさい……!」 「気にすることはない。君はよくやっている」 凰牙が全体を見据え、腕から放つ竜巻でけん制しては動き回って別の機体のフォローをする。 黒ずくめの伊達男、ロジャー・スミス。交渉術で培った冷静さで、必死に戦っている。 「ロジャー、そちらはどうだ!?」 「まだ、ファイナルアタックを使用するだけのエネルギーは残しているつもりだ。だが……」 ロジャーも、アムロのゴッドフィンガーに似た攻撃としてファイナルアタックを持っている。 だからこそこういう立ち回りをしているのだろう。 だが、という言葉の後はアムロにも分かる。おそらく、同じ苦悩をロジャーも感じているのだろう。 その時、気付いた。ロジャーの腕が震えている。 そのことに、声を失ったアムロを見て、ロジャーは食いしばりながら答えた。 「恐怖は、この謂われのない不条理な感情は、生理反応でしかない。……理性で克服できるはずだ」 ロジャーもまた、蒼い孤狼が口を広げる領域に飛び込んでいく。 蒼い孤狼と凰牙が撃ち合うたびに、火花が散る。その中、何度倒れても起き上がりフォルテギガスが突撃していく。 サイバスターも、不死鳥へ姿を変えて突進する。 誰もが、戦っているのだ。 恐怖そのものと。恐怖を塗りつぶすほどの怒りの中。 恐怖を乗り越えた情熱で。 ―――俺は、どうだ? ただ、気配に呑まれていただけじゃないか? ギンガナムと戦い黒歴史を知り、 ガロードを失ったことを突き付けられ、 シャギアに憎しみをぶつけられ、 目の前の大きな恐怖に呑まれていただけではないのか? キラを戦いに遠ざけた時から何かずれていなかったか? 「情けない奴……!」 かつてシャアに言った言葉がそのまま自分に跳ね返る。 賢いフリ、賢明なフリをして下がって傍観する。若い時、自分が憤った大人の姿そのものではないか。 若者――未来が戦うならば、俺たちはそれを守るのが役目だろう。 だというのに、戦うことそのものを奪ってしまって何の意味がある。 これが年を取るということかと納得まではしたくはない。 だが、それでも。 何度でも立ち上がり勝利を目指す者たちの道を切り開く。 ――それが、俺たちの役目だろう、シャア。 F-91が光輝に包まれる。 展開される三枚のフィン。金色の輝きが、全身を包み込んでいた。 ギンガナムを一方的に屠り去ったバイオコンピューターの最終形態――F-91・スーパーモード。 それが今、蒼い孤狼を前にして再び現出する。 このまま消耗を続けていては、勝ち目はないなんてことは分かっていた。 仮に勝っても、残り二つの壁を越えることなどできようか。 なら、どこかで勝負の流れを引き寄せる一手が必要になるのは当然なのだ。 それを躊躇していた自分をアムロは恥じる。 金色の矢となってアムロは突き進む。蒼い孤狼も危険を察知したのだろう。 目の前に相対していたフォルテギガスを無視し、F-91に向き合った。 その拳を、蒼い孤狼が受け止める。 「これか…… これが……」 蒼い装甲が砕け、中から爆ぜる。それとともに、大地に落ちて音を立てる銃口の花束。 ついに、孤狼にダメージらしいダメージが通った。F-91がビームソードを引き抜き、叩きつけようとする。 だが、それより前に、蒼い孤狼の肩から無数のベアリング弾が飛び出した。 装甲解放、射出のタイムラグは先ほどまでと変わって、まったくない。 F-91のバリアフィールドとクレイモアがぶつかり合う。 「ぐっ……!」 その規格外の巨大なクレイモア。 最初バリアで逸らせたが、徐々に貫通しかねない勢いになっていく。 ベアリングの嵐で動くこともできない。このままでは、やられる。 だがそれも一人だけならば、だ。 F-91のバリアの陰に隠れるようにブレンが現れる。 次の瞬間、バイタルジャンプが再び行われクレイモアの中からF-91を救いだした。 ベアリングをばらまきながら方向転換をする蒼い孤狼。無差別に破壊が周囲にまき散らされる。 しかし、再び破壊がF-91を捕らえるよりも速く、蒼い孤狼の肩が爆ぜる。 離れた場所で倒れながらもオクスタンライフル・Wモードを構えるサイバスター。 その一発が、正確に肩の爆薬を打ち抜き、誘爆させた。 蒼い孤狼は爆発にのけぞる勢いを利用し、武器のハンマーを振り回す。 ハンマーの鎖が、別所から飛んできたハンマーのビームワイヤーにからめとられた。 バランスを崩しつつあった状況のため、踏ん張りがきかずガンダムハンマーはその手から引き抜かれる。 大地にがっしりと足を降ろし、ハンマーのワイヤーを引くフォルテギガス。 行ける、押し切れる! ブレンから離れ、F-91は再び蒼い孤狼の支配する距離へ飛び込んでいく。 「完全に近い……生命の……欠片!」 「うおおおおおおおおおおおッッ!」 ビームソードにその力を収束させる。伸びるゴッドフィンガーソードが、空を割る。 蒼い孤狼もいまだ戦意は失せていない。大地で待つ気もなく、スラスターの加速で空へ走る。 裂帛の勢いで放たれる右手の杭打ち機。凰牙のタービンから放たれる竜巻が、蒼い孤狼をあおる。 大地に足を下ろしてのインファイトなら、この程度ではびくともしないだろう。 しかし、今蒼い孤狼がいるのは空。僅かではあるが風で蒼い孤狼の姿勢が崩れた。 杭打ち機は、バリアを容易に引き裂きはしたが、F-91の本体には届かない。 アムロの目の前にあるのは、がら空きになった蒼い孤狼の胸。 (すまない……今は、そちらごと!) 心の中で、ノイ・レジセイアに乗っ取られた哀れな男に謝罪する。 そして、アムロは赤い球の下にある、コクピットブロックに深くゴットフィンガーソードを差し込んだ。 蒼い孤狼の、全身の間接から光が漏れる。 ゴッドフィンガーソードに、バチリと雷光が起こる。 「これは……!?」 次の瞬間、超高電流がアムロの体を打った。 →moving go on(3)
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ホワイトドール ◆caxMcNfNrg 「これ・・・髭のない、ホワイトドール?」 それが、支給された機体に対する少女の感想だった。 白を基調とした色の機械人形・・・ホワイトドール。 機体の姿形こそ、彼女の知識にあるものとは違うが、 それは少女のよく知る黒歴史の遺産と酷似していた・・・ 数十分後、素早く操縦法をマスターしたソシエは、 南北に走る道路の上空を、南へと向けて下っていた。 (他の人たちと・・・皆と力を合わせれば、あんな化物でも倒せる!) そう、それに、こちらにはホワイトドールがあるのだ。 「髭が無くったって、ホワイトドールはホワイトドールよ!」 少女は知らない。その機械人形は黒の暦に記されているような物ではないという事を。 ―――――――――皆様、類似品にはご注意しましょう――――――――――― 【ソシエ・ハイム 搭乗機体:機鋼戦士ドスハード(戦国魔神ゴーショーグン) パイロット状況:良好(機体がガンダム系だと勘違いしています) 機体状況:良好(AIは取り外され、コクピットが設置されています) 現在位置:E-5空中を南下中 第一行動方針:仲間を集める 最終行動方針:主催者を倒す】 【時刻 12 30】 BACK NEXT 金髪お嬢とテロリスト 投下順 邪龍空に在り 護るために 時系列順 黄色い幻影 BACK 登場キャラ NEXT ソシエ パンがなければお菓子をお食べ
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Night of the Living Dead ◆ZbL7QonnV. ごうごうと燃え盛る炎に呑み込まれ、全てが灰の中に消え去ろうとしていた。 木も、草も、花も、なにもかもが燃え落ちていく。 この場で起きた戦いの痕跡を消し去ろうとするかのように、炎の顎は飽く無き暴食を続けていた。 ……だが、それは如何なる悪魔の導きか。 その燃え盛る火よりも尚紅い機体は、炎の中より起き上がろうとしていた。 ガンダムレオパルドデストロイ―― 本来ならば炎の中に消え逝くはずだったそれは、まるで墓場の底から蘇るゾンビのように、ゆっくりと立ち上がり始めていた。 パイロットであるギャリソン時田の命は、既に無い。マスターガンダムとの死闘によって、とうの昔に失われている。 だから今現在機体を操縦しているのは、彼であろうはずもなかった。 だが、それならば誰が? この劫火に覆い尽くされた森の中、レオパルドを操縦しているのは誰なのか? ……その疑問に対しては、こう答える他にない。 かつてギャリソン時田であり、そして今は不死の怪物になった者、と。 そう。レオパルドのコクピットに居るのは、DG細胞に侵食されてゾンビ兵と成り果てた、ギャリソン時田その人であった。 あの時――マスターガンダムに敗れ去った後、ガウルンに植え付けられたDG細胞は、レオパルドを汚染する事に成功していた。 それも、コクピット内部に放置されていたギャリソン時田の死体ごとである。 その結果、ギャリソンの死体はゾンビ兵に変化。DG細胞の自己再生機能によって回復したレオパルドと共に、今一度の“生命”を得る事に成功したのである。 もっとも、それはギャリソン本人にとっては、望まざるべき事だろう。 かつての記憶も感情も無く、ただ目に付く物を破壊する事しか出来ない、DG細胞の操り人形。 そんなものに身体を作り変えられて、喜ぶ人間など居ようはずもない。 だが、皮肉なものだ。DG細胞に全身を犯された今のギャリソンは、もはや何を思う事も、何を感じる事も無い。 ただ、死体を弄ばされているに過ぎないのだから……。 「……………………」 装甲に穿たれた無数の傷跡が、ゆっくりと銀の細胞に覆われていく。 ずしん、ずしんと重厚な足音を轟かせながら、ガンダムレオパルドデストロイは燃え盛る森を後にしていった……。 【ゾンビ兵 搭乗機体:ガンダムレオパルドデストロイ(機動新世紀ガンダムX) パイロット状況:DG細胞感染 機体状況:ダメージ中、コクピット損傷、全武装弾数残少 ヒートアックスとビームナイフは非装備、DG細胞感染 現在位置:B-5密林(大規模な火災が発生中) 第一行動方針:破壊 最終行動方針:??? 備考:DG細胞の働きにより、機体に自己再生機能が備わりました エネルギーと弾薬は自己再生機能により少しずつ回復していきます ゾンビ兵を排除すれば、レオパルドを他の人間が操縦する事も可能です DG細胞に感染した存在(ガウルン、マスターガンダム)に対して反応を示す可能性があります 機体の形状が変化するほどの自己進化は行いません ギャリソン時田の記憶や戦闘経験は完全に失われています】 【初日 20 30】 本編119話 未知との遭遇
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ネクスト・バトルロワイアル ◆XrXin1oFz6 場に三界あり。 一つ、監査官の住む、世界の狭間に存在する赤き世界。 二つ、時の向こうに存在する調停者の力で生まれた。時を重ね作られた世界。 三つ、二つ目の世界が生まれ変わり現れた新たなる世界。 因果律という名の神に仕える大天使ノイ・レジセイアが生み出した完全に近き宇宙。 人の希望と、絶望と、慟哭と、歓喜と、数多の魂を練り込み作った世界。 新たなる世界は、古き世界を飲み込まんと膨らみ始める。 行く末を決めることが出来るのは、今この場に居合わせた者のみ。 ノイ・レジセイアの願いが達成されるのか? ノイ・レジセイアへの反抗者の願いが達成されるのか? それとも、どちらにも属さない者たちの願いが達成されるのか? 遥かなる戦い――開幕(オン・ステージ) ■ 風が世界に吹いた。世界のすべてを駆け抜けていく一陣の風が、偽りの大地を両断する。 めくれ上がり、舞い上がる土が、盛大に土埃を巻き上げた。視界に映るもの全てを叩き割る剛剣が唸る。 「おおおおおああああああああああ!!」 青年の口から放たれる叫びが、白い魔星を揺らす。 もう戻れない。元通りなど願えない。それでも、なおその眼に眩しく映るものがあるならば。 他者と、世界と、自分を捧げてでも叶えたい願いがあるならば。 青年は、その問いに「イエス」と答えた。その選択が、自分の求めたものを汚す行為であっても。 それを知ってなお、青年は「イエス」と答えたのだ。 それは、血みどろの腕で、ウェディングドレスを抱きしめるに等しい。 けど、それでもいいのだ。 だから。 己の血を大地に流し、切り伏せた他人の血を大地に流し、それでも歩みを青年は止めることはない。 青年の視界に移るのは、黒い騎士と、赤い古鉄。 敵の姿をはっきりとその瞳に映す。 音速をはるかに超過する速度であろうとも、もはや敵を、目標を見失うことはない。 紫雲統夜は、目標に向けてのみ動く一本の剣と化した。 黒い騎士が、その手に掲げた鞭を伸ばす。追いすがる鞭を、統夜はいとも簡単に弾き落とした。 統夜の体の一部、延長であるイェッツト・ヴァイサーガが、大地を踏みしめ減速する。 普通なら、装甲や関節の衝撃緩衝が追いつかず、足が砕け散り倒れていただろう。 しかし、イェッツト・ヴァイサーガは大地を離すことなくつかんでいる。 減速が一定以下になったところで、一気に再びイェッツト・ヴァイサーガが大地を蹴る。 砕けた土が落ちるより早く、背中から噴出されたスラスターが、舞い上がった土を溶かす。 目標は赤い古鉄。かつて闘ったときは、統夜の技量の低さもあって敗北を舐めることとなった。 だが、今は違う。 一瞬にして距離をゼロにし、イェッツト・ヴァイサーガが剣を振り上げる。 それを見上げる赤い古鉄は、攻めるためにあるはずの大出力スラスターを、逃げるために惜しげもなく利用した。 反撃はない。よけるだけで精一杯なほど、今の統夜の一撃は、重く、速く、鋭い。 「なぜだ……先程まで動くことすらままならない状態だったはず、それがこうも……!」 ネゴシエイター、ロジャー・スミスのいぶかしむ声を遮り、イェッツト・ヴァイサーガの投擲したクナイが、凰牙をかすめる。 クナイを投げて空になった手に再びガーディアンソードに滑り出された。 肘の部分で接続されたガーディアンソードは、手を離してもイェッツト・ヴァイサーガからは離れない。 視界の端にかすめる赤い古鉄が、五連チェーンガンを撃つ姿が見えた。 銃口が放たれる眩い光が、火薬の臭気とともに運ばれる。統夜は、身をかがめることでチェーンガンを回避する。 統夜には、分かる。外の爆発音も、火薬の臭いも、何もかもが。 「……人間をやめたのか」 じりじりと間合いを取ろうとする赤い古鉄。 思い出すのは――アキトとの一度目の戦い。 以前の統夜は飛び込むのを躊躇し、駆け引きとも呼べぬ迷いを生じさせた。 その結果、統夜は負けたことを覚えている。だから、統夜は相手の考えの一切をあえて無視し、一直線に切り込んだ。 止められるものなら、止めてみればいい。 向こうがただの古鉄から巨人の名を冠したものに変わっても、ヴァイサーガの変化はそれを上回る。 五大剣とガーディアンソードを交差させ風を集め圧縮、そして解放することで衝撃波を全体に放つ。 その衝撃波に追いつくように、イェッツト・ヴァイサーガが駆ける。 全体をなぐ五大剣の衝撃波でネゴシエイターを足止めし、同時にガーディアンソードのそれで赤い古鉄の逃げ場を防ぐ。 その上で、追撃を加える。絶対必中の確信を持って統夜は攻撃を放った。 赤い古鉄は、クレイモアの発射口こそ開いたが、動かない。 近づく衝撃波を、迎え撃つように泰然と立っている。衝撃波と言えど、イェッツト・ヴァイサーガの繰り出す技である。 当たれば、行動が一拍遅れることは間違いない。続いてイェッツト・ヴァイサーガの剣も受けることになるのは必定。 クレイモアによるカウンター狙いとしても、衝撃波の威力をアキトは見誤っている。 僅かな時間にそれだけのことを思考し、なお直撃を確信した統夜は、スピードを上げた。 もう一秒もかからず赤い古鉄にイェッツト・ヴァイサーガの両手の剣による二連撃が叩き込まれる。 そんな中、赤い古鉄が、統夜から見て向かって右の手を開いた。何をする気かと統夜は視線を赤い古鉄の手に集中させる。 (あれは、宝石?) 赤い古鉄の手の上には、小さな青い宝石が置かれていた。だが、それでどうするというのか。 視線だけはそちらに向けたまま、イェッツト・ヴァイサーガは切り込んでいく。額の角に触れるか触れないかまで剣が迫る。 そして。 赤い古鉄が消えた。 剣は空を切り、大地に突き刺さるのみ。 (―――!?) 一つだけ、アキトが統夜と闘ったとき、使わなかった戦法がある。いや、使えなかったと言うべきか。 アルトアイゼンの受領に際して、主催者側より加えられた制限があったのを覚えているだろうか。 それは、ボソン・ジャンプの禁止。故に、あの戦いではアキトはボソン・ジャンプを統夜に見せることはなかった。 だが、今のアキトに首輪という枷はない。故に。 「ゼロ距離、とったぞ……!」 左後方より聞こえる声。 さっきまで右前方にあった手に集中していたため、視線を向けるのが遅れた。 統夜が、五大剣を横へなぎ回転切りを繰り出すのと、前より肥大化したクレイモアが打ち出されるのは同時だった。 アルトアイゼン・リーゼのアヴァランチ・クレイモアの散弾がイェッツト・ヴァイサーガの装甲を叩き、 イェッツト・ヴァイサーガの剣がアルトアイゼン・リーゼの肩部装甲の一部を削り飛ばす。 「お前がゼストのような存在になったとしても同じだ」 イェッツト・ヴァイサーガの胸板に、赤い古鉄が飛び込んでくる。両者の身長差は約二倍。 ひとたび、懐に潜り込めば、有利になるのは赤い古鉄だった。 「コクピットを抜く」 手を振り上げ、打ち込む時間すら惜しいと判断したのだろう。 赤熱化した角で、赤い古鉄はイェッツト・ヴァイサーガの胸に突撃を仕掛けてきた。 アキトの言葉通り、いかにイェッツト・ヴァイサーガでも、パイロットである統夜を潰されてはどうしようもない。 しかし、浅く突き刺さったところで角の動きが止んだ。それ以上、突き込むことはない。 なぜなら、アルトアイゼンのコクピットの前にも、刃が突きつけられていたからだ。 今のイェッツト・ヴァイサーガの投擲具は、自己生成されている。その機能を使い、装甲表面に烈火刃を発生させたのだ。 大きさ故に装甲表面からコクピットまではアルトアイゼンのほうが短い。踏み込んでいれば、アキトはつぶれている。 剣をふるい、赤い古鉄を統夜は引き剥がそうとする。しかし、それより早く赤い古鉄は再び消えて、自分の背面へ。 「ッ! ちょこまかと!!」 再び振るわれる回転切り。 今度はそれをくぐり、赤い古鉄はリボルビングバンカーを五大剣に打ち込んだ。 さしものジョイントの接合部分も衝撃に耐えられず、五大剣がイェッツト・ヴァイサーガの手から離れ空を舞う。 統夜は、知らない。 アキトが元の世界で黒い王子様と呼ばれ、テロリストとして活動していたことを。 そして、そのテロ活動の間、神出鬼没であることから幽霊とも扱われていたことを。 ――アキトはボソン・ジャンプによる強襲を得意とし、短距離ボソン・ジャンプと突撃仕様の機動力で相手を撹乱してきたことを。 木連が利用するような大型機相手にも、アキトはこうやって闘っていた。 はっきり言って、イェッツト・ヴァイサーガとアルトアイゼン・リーゼの性能差は、とてつもなく大きい。 デビルガンダムと、そこらの突撃仕様のモビルファイターが闘うにも等しい。 だが、それでも。相手の手を知り尽くし、自分が最も得意とする状況に引きずり込み、相手に不利な状況を強要すれば。 その差は、確実に詰まる。 もっとも、徹底したインファイト故、援護が全く見込めない状況になるが、もともと一人で戦ってきたアキトには問題ない。 ネゴシエイターの援護なしでも、アキトは統夜に勝利するつもりでいたのだ。 「ネゴシエイター、そこで見ていろ。手を出すな」 しかし、あくまで援護が難しい状態であって、援護が必要ないわけではない。 それでも、アキトはネゴシエイターにそう通信を出した。オープンチャンネルで行われた通信のため、統夜にもそれが聞こえている。 「そうかよ! 俺なんか、一人でも大丈夫って言いたいのかよ!」 統夜を無視し、アキトはさらにネゴシエイターに声を送っている。 「ネゴシエーションと言うつもりはない。だが、こいつには話したいことが残ってる」 「俺には、あんたに話すことなんてないっ!」 イェッツト・ヴァイサーガの剣を、重量級の赤い古鉄でひらりとかわされた。 翻弄されている。 強くなったはずなのに、全てを殺さなくてはいけないのに。 それでもなお依然と同じように力が詰まっていない錯覚を、統夜は感じていた。 ガウルンにすら勝った自分。確かに強くなったという実感は何だったのか。 「テンカワ、君が何をしようとしているのはわからない。しかし、君が誠実に言葉を尽くすつもりと言うのなら……」 どうせ、この鍔迫り合い同然のインファイトでは、凰牙は手は出せない。 そう思い、血を頭に登らせていた統夜は反応が遅れた。 黒い何かしらの力を称えた球体が、イェッツト・ヴァイサーガに近付いていたことを感じ、統夜は反射的に上に飛ぶ。 しかし、60mオーバーの巨体ではいくら機敏なイェッツト・ヴァイサーガといえど完全な回避は難しく、黒球は下半身をとらえていた。 「私は力を貸そう。先程君に使った力を使わせてもらった」 イェッツト・ヴァイサーガの下半身が動かない。感覚はある。痛みはない。異常もない。 だというのに、その場に固定されている。スラスターを吹かしても、その場から動くことができない。 いや、スラスターを切っても動くことができない。偽物の星とはいえ、ここには擬似的な重力がある。 それによって起こるはずの自由落下すら起こらないのだ。 「なんだよっ! なんだよこれっ! 動け、動けよ!」 いくら操縦桿を動かしても、動くのは上半身だけ。 そもそも、下半身が固定されている以上、せいぜい腕が届く範囲までが有効範囲。これでは、どうしようもない。 アルトアイゼン・リーゼが悠々と足を進めてきた。そして足元から、イェッツト・ヴァイサーガを見上げている。 動けさえすれば、そのまま踏みつぶすこともできるのに、と統夜が顔をゆがめた時。 「テニアは、どうした?」 アキトの妙に平坦な声が統夜に投げかけられる。 嘲るわけでもない。しかし、疑問形でありながら、本当に疑問に思っているようにも聞こえない。 それは――確認だった。 テニア。その言葉を聞いた瞬間、統夜は目の前が真っ赤になるのを感じた。同時に操縦桿を傾けてもいた。 しかし、イェッツト・ヴァイサーガが動くことはない。何もできないことを再度自覚し、頭が自然と冷える。 「……死んだよ」 死。 そう、テニアは死んだのだ。 その認めがたい事実を覆すため、統夜はこうして足掻いている。もがいている。 「やったのはガウルンか?」 「そうだよ、だから、どうしたって言うんだよ!?」 覆してしまえばいい。自分にとって不都合な真実は、変えてしまえばいいのだ。 今、存在している真実に意味なんてない。塗り替えた後の真実だけに、意味がある。 凰牙が、イェッツト・ヴァイサーガに背を向けた。ロジャー・スミスの声がインセクト・ケージの中に響く。 「そういうこと、か。テンカワ。しかし、それを聞くということは君も……本当はわかっているのではないか?」 「……さっきも言ったはずだ。お前には、関係ないと」 「ならば、そこの統夜には関係があるというのか? ……違うのではないかね」 「…………」 統夜には理解できない問答をしているネゴシエイターとアキトを睨みつけたまま、統夜は無言で待つ。 どんな事情であろうと関係ない。動けるようになった瞬間、目の前の二人を叩き切る。それだけに思考を集中させる。 アキトがまた口を開くのを、統夜はただ見つめていた。 「それで。お前はテニアを生き返らせたい。だからこうやって闘っている」 「そうだよ、それの何が悪い?」 統夜は悪びれない。罪悪を感じる地点はもう過ぎ去った。 手段を正当化するつもりもないが、悪いと指摘されても心は疼かない。 「人間をやめてでも、か?」 「そういうあんたはどうなんだ? まだ自分が人間のつもりか!?」 生体波動の判別すら可能になった統夜には分かる。今のアキトが、通常の人間からはるか離れたものであることが。 そもそも、いくらインファイトとはいえ、いやインファイトだからこそ、ギリギリの反射神経が何よりも重要になる。 先程の戦いでイェッツト・ヴァイサーガの攻撃を裁いたアキトの能力は、もはや人間の枠の外にあるだろう。 「いや、違うだろうな。俺自身、本当に俺が俺なのか分からない。だから、何かが足りないと感じるのかもしれない。 それでも、俺は生き返らせたい。ユリカを。ガウルンに殺された、ユリカを」 「……アキト?」 ずいぶんと親しげなニュアンスで、統夜はアキトの名前を呼んでいた。 今まで名前も呼んだこともなく、面識も薄い相手を。統夜にも、何故そんな呼び方をしたのか分からない。 一瞬、頭をよぎったのは、あのJアークに乗っていたキラだったかと、自分と、アキトの三人が顔を突き合わせて話すシーン。 だが、そんな記憶があるはずもない。そもそも、イメージのアキトは目の前にいるアキトより若かった。 「お前は、その意思が紛れもなく自分だと納得できるか? いらない誰かの横やりでないと……証明できるのか?」 似ている。 統夜と、アキトは似ているのだ。 愛する者を奪われ、復讐に固執し、奪われたものを取り戻すために生き足掻く。 今までろくに交わることのなかった、二本の線。しかし、それが描いてきた軌跡はどこまでも似ていた。 統夜は、歯を食いしばる。 ここで違うと言うのは自分全ての否定だ。 自分が本当に、純然に、純粋に自分と言えるのか。 統夜にも、分からない。統夜は、もう人ではない。さまざまな力をその身に宿した。 その力の一つが意思を持って、自分を動かしているのかもしれない。 そんな想像は、身の毛もよだつものだった。 だが。それでも。 「……だったら、何なんだ?」 テニアが大切な人である事は変わりがないのだから。 例え統夜の意思が誰かのものだったとしても、今まで自分がやってきたことは間違いないのだから。 悩み、怯え、竦み、人を切ったことに戸惑い、後悔し、何度も挫けそうになり、ようやくつかんだ温もり。 ズタボロになった心と身体を引きずりながらも、ここまでやってきた。 それを嘘にはしたくない。 人道的とか心の問題ではなく、もはや存在として人を外れたとしても、そこは嘘じゃない。 きっと、自分はずいぶんいびつな存在なのだろう。 だから、どうした。 イェッツト・ヴァイサーガが再び吠える。 固定された空間でも、なお足掻く。その行為は、統夜の生き写しであった。 空間ごとの固定のため動けない。攻撃することができない。だから、どうした。 なら、変えてしまえばいい。真実は、事実は、世界は、統夜のためにあるのだから。 「!? ……機体ごと割れるだけのはずだ、それを……!」 空間に、ヒビが走る。 ガトリングボアによる時間停止で固定された空間が割れる。空間に寄り添う形で必ず存在する時間が割れる。 イェッツト・ヴァイサーガに備わった機能ではない。純粋に力押しで、己の意思の強さで統夜は押し通る。 そこにはもう、うずくまり、泣いていた少年の影はなかった。 「ヴァイサーガ……フルドライブッッッ!」 そして時は動き出す。 この一歩は時間より早く、光より速い。連続で放つ必要はない。 すれ違いざまの一刀で十二分。放つは絶技、ヴァイサーガの必殺剣。 「光」 再び、ネゴシエイターが腹の猪型のガトリングガンを向ける。 「刃」 しかし、それが放たれるより早く、ヴァイサーガは接近している。 「閃」 煌めく剣筋が、袈裟がけに凰牙に刻まれる。 「斬ッッ!」 ギリギリで一歩下がったため、深くは入らなかったか。もともと、無理な姿勢で放った一撃だった。 それでも、十分だ。凰牙の厄介な兵器は一刀の下、砕け散ったのだから。 たたらを踏む凰牙に、なおも剣をひるがえして切り込むイェッツト・ヴァイサーガ。 タービンの回転により力を受け流され、刃をいなされる。 しかし、その衝撃は凰牙の手に握られていた斬艦刀を弾き飛ばした。 背後から来る気配。 即座に統夜は、失った五大剣の代わりとして空中に浮かびあがった斬艦刀をつかみ、横に体を回しながら振り向いた。 「覚えたぞッ!」 背後まで剣を振っても、まだ止まらない。 そのまま、自分が元々向いていたほうへ、一回転するかたちで剣を振る。 「一度戦った相手には! もう絶対に負けなあああああああいィィィ!!」 「……ッ! 跳躍を読んだ!?」 中空に身を投げているアルトアイゼン・リーゼに逃げ場ない。 咄嗟に左手を盾にしたのが見えた。だが、それごとイェッツト・ヴァイサーガの剛剣は叩き切る。 左手、左肩、頭部。踏ん張りが利かない以上、剣の衝撃が伝えにくい空中でさえ、重装甲の赤い古鉄をやすやすと切り裂く。 飛び石のように地面を跳ねながら、赤い古鉄が遠くに弾き飛ばされる。 「くっ! まだだ!」 「それも、もう見た!」 思い出すのは―-ロジャー、ソシエをガウルンごと切ろうとした戦い。 僅かに右手が持ち上げられる。それだけで統夜は凰牙が次に何を行うのかを理解した。 左腕に誂られたタービンが高速回転を起こし、風を巻き上げる。 だがそれは、ネゴシエイターたちを奇襲した時に、既に見ている。 あの時は、先に撃ったのが自分で、阻んだのは凰牙だった。 今度は、逆。 イェッツト・ヴァイサーガが、両腕のねじりを加えながらまっすぐに剣を突き出す。 それによって一方向に纏まり、円を描き、急速に風は勢力を増していく。 凰牙から放たれた風の竜巻、『波動龍神拳』が、吹き荒び渦を為す風の障壁『風刃閃』によって打ち消される。 二つの竜巻がぶつかり合い、猛烈な突風を起こした後に流れるのは、そよ風のみ。 そんな僅かな静寂の中、凰牙の右腕が地面に落下し、重苦しい音を立てた。 「ぐっ……!?」 「風刃閃・双牙……!」 本来なら、片腕に重心を乗せて放つ両者の技。 しかし、イェッツト・ヴァイサーガは力に任せて両腕から風刃閃を放った。 もう一つの風刃閃は、竜巻を放たぬ凰牙の右腕を、根元からえぐり取っていた。 肩からは紫電が走り、切り口からおびただしい緩衝材の液体を噴出させ、凰牙が膝をつく。 赤い古鉄に視線を向ければ、ぎこちない動きで立ち上がろうとしていた。 いかに重装甲言えど、フレームのどこかが歪みでもしたのかもしれない。 一瞬の、形勢逆転。 イェッツト・ヴァイサーガの装甲が湯気を立てる。すると、装甲の傷が閉じていく。 その様子は、生物の新陳代謝によく似ていた。内部から、裏返るように装甲が盛り上がり、内部に食い込んだクレイモアの破片を排出する。 暗い青の装甲は、ラズムナニウムにより再生能力を獲得していた。 赤い古鉄の姿が消えた。また跳躍したということか。 急に眼の前に飛び込んできた赤い古鉄。統夜はそのスラスターの輝きを確認し――そっと身を引いた。 赤い古鉄の杭打ち機は、『統夜の目の前にいるイェッツト・ヴァイサーガ』に当たり、すり抜けた。 ヴァイサーガの力を完全に引き出すことで可能にした能力、『分身』。 思い出すのは――白銀の可変機、真・ゲッター2と戦ったときと、インベーダーと戦った時のこと。 足を止めず小刻みに動き、残像を残すことで、的を絞らせない。 本体が分からなければ、下手な跳躍は無防備な姿をさらすだけだ。 統夜の思った通り、アキトはネネゴシエイターと背を合わせ、周囲を警戒するばかりだ。 統夜は、誰よりも闘った。そして、生き延びてきた。 アキトやガウルン、シャギアにジョナサン。そういった手合いに何度となく敗北し、鍛えられてきた。 精神的な伸びしろではキラ・ヤマトもいる。潜在能力ではシャギア・フロストも。 しかし、純粋な戦闘能力に関してだけ言えば、紫雲統夜は誰よりも成長した。過去戦った相手を、ガウルンすら下すほどに。 その成長は、止まっていない。新たな戦い方を見せられれば、それを学び、対処法を編み出す。 そういった天賦の才も持っていた。 左腕を失ったアルトアイゼン・リーゼと、右腕を失った凰牙が背中を合わせた結果、両機とも腕を持たない側面が生まれた。 そこに統夜は烈火刃を投げ込み、分断を図る。しかし、敵同士であったはずの二機は、ぴたりと背中を合わせ離れない。 生き残るためなら咄嗟に手を組むあたり、一流の戦士である証明と言えるだろう。 統夜は、このまま攻め続ければ確実に勝利できた。 牽制とはいえイェッツト・ヴァイサーガの攻撃ならば、風刃閃を含み十分に防御の上から削り殺すことができたのだ。 だが、統夜にはあまり時間がない。いや、あるのだがここまで来たのだから一刻でも早く目的を成したい、 そして、真の敵、最も強く警戒すべきはノイ・レジセイアであり、ここで躓いている暇はないという意識が心の奥でわずかにあった。 故に、統夜は動いた。 腕を失った側面から、最大最速の攻撃である光刃閃で再び切り込む。 向き合う時間など与えず、二機まとめて両断しようという、シンプルで、それでいて強力な戦法。 ラーゼフォンすら撃墜し、真・ゲッターもコクピットまで切り裂いた。ガウルンを下したのもこの変型。 エネルギーの問題が進化により解消された今、統夜が一番信用する業である光刃閃を何度も選択するのは当然だった。 「コード・光刃閃……!」 極度の集中で、引き伸ばされる時間。ヴァイサーガの身体が、矢へと変わる。 掌に刃の重さを感じ、足場を踏みしめ、ヴァイサーガは音を超え、一筋の閃光となって突撃した。 対処する時間すら与えない一撃が二機に迫る。 「やはり、そう来ると思っていた。だからこそ、やりようもある!」 凰牙は、こちらを向いていない。当然だ、向く時間などないのだから。 だが、統夜は見落としていた。相手の腕のない側面から仕掛けるとなれば――もう片方、腕がある側は死角になるということを。 のたうつ紫の光線が、凰牙の左腕側、死角となったところから伸びる。 イェッツト・ヴァイサーガは身をかがめそれを紙一重で回避しようとする。 しかし、光線はさながら野球のフォークボールのように落ちた。 統夜は反射的に剣でそれを防ごうと手を上に突き出した。 今度は剣の直前で曲がると、そのまま腕を這うように回転し、締め付けてくる――! それがバイパーウィップという名であることを統夜は知らない。 しかし、これが自分にとって致命的な何かをもたらすことは理解する。 ぐしゃり、とイェッツト・ヴァイサーガの腕が割れた。 フィードバックされる痛みよりも、必倒の剣である光刃閃が潰されたことに統夜は眼を一瞬見開いた。 手からこぼれ落ちるガーディアンソード。さらに、勢いよく飛び出した体は、鞭のため二機の直前で停止。 目の前には、鞭となった片腕を全力で支え踏ん張る凰牙と、杭打ち機のついた右腕を掲げた赤い古鉄。 「抜き打ちだ。……いくぞ」 あの時は、統夜の逃走によりつかなかったヴァイサーガとアルトアイゼンの抜き打ち勝負。 アルトアイゼン・リーゼの左腕がまっすぐと伸びる。 もう一方の手に握られていたイェッツト・ヴァイサーガの斬艦刀が、下から跳ね上がる。 リボルビングバンカーがイェッツト・ヴァイサーガのコクピットの半ばまで食い込む。 イェッツト・ヴァイサーガの斬艦刀が横からコクピットを両断しようと近付く。 そして―― 「……ここまでか!? だが、まだ――!」 コンマ数秒の差で統夜は勝利を確信する。だが、同時にアキトもまた敗北を悟ったのだろう。 統夜の予想した「真っ二つに砕け散るアルトアイゼン・リーゼ」という光景が訪れることはなかった。 次の瞬間、目を焼く蒼い輝きが周囲にまき散らされ――凰牙とアルトアイゼン・リーゼは統夜の目の前から消失していたのだから。 空間跳躍かと周囲を見回すが、何も起こらない。本当に、その場から二機とも忽然と消えた。 生体波動も、感じることができない。それは、この世界のどこにもいないことを示している。 「どこに消えたんだ……?」 その統夜の呟きも、どこにも届かず消えていくだけだった。 「まあ、いいさ……絶対に倒さなきゃいけないのは……」 一番大きな力を持つ、ノイ・レジセイア。そして、それに匹敵する命の輝きを持つ何か。 そのためには、足を止めている暇など統夜にはない。統夜は、受けたダメージを確認する。 残念だが、片腕は即座に再生は不可能。簡単なものをつかむことはできるが、刀を振り回すだけの握力は戻っていない。 両手に刀を持つことはできないようだ。ガーディアンソードはまだ肘にはジョイントされているが、使用は難しい。 だが、それ以外はまだ再生の範囲内。 手の中にある斬艦刀を統夜は、イェッツト・ヴァイサーガは握りなおす。 目指すは、この星の中心へ。さらに深い、奈落の底へ。 ただ、地獄の果てに希望を夢見て。 ■ 「――断る」 デュミナスに対する、ノイ・レジセイアの答えは非常に短いものだった。たった、四音。文字なら二文字。 ノイ・レジセイアの答えを受けて、デュミナスと名乗ったAI1は次元の裂け目から露出している体を小さく震わせた。 「何故?」 問い返すデュミナスの言葉に答えることなく、ノイ・レジセイアの体は深紅の幽鬼に吸い込まれて消える。 ペルゼイン・リヒカイトの瞳に燃えるような輝きが灯った。仮面と仮面がずれ、骨がきしむような音が鳴る。 そこから生えるのは、一本の大太刀。 さらにきしむ音は止まらず、今度は両肩から浮かんでいた仮面から本体と同じ深紅色をした骨の手と体が現出する。 指揮者の指揮棒のように、振り上げた大太刀をノイ・レジセイアとなったペルゼイン・リヒカイトが振り下ろす。 瞬間、轟音とともに人魂を束ねて燃やしたか如き炎が次元の裂け目に殺到した。 「何、故?」 再び、デュミナスが問う。 次元の裂け目が広がり、濁った桃色の巨大な拳が現れた。 掌の中心に瞳の文様があしらわれたそれを前に差し出し、ノイ・レジセイアの炎をデュミナスは受け止める。 「完全な世界……完全な存在……そうなるための世界……お前は」 大太刀をまっすぐにデュミナスに向けて、一言。 「完全ではない。完全な存在ではない。不完全」 その言葉に、デュミナスが動きを止めた。完全ではない。不完全である。それが、デュミナスにとっての呪い。 あのお方にかけられた呪いを、ノイ・レジセイアに突き付けられ、一瞬思考がフリーズした。 自分が、過ちである。間違いである。それがデュミナスは嫌で嫌でたまらない。 「あなたも……私をデュミナスと……不完全と呼ぶか……なら……」 次元の狭間を引き裂き、デュミナスの全貌が明らかになる。 四つの巨大な掌。下半身はなく、先細る円錐のみが備わっている。そして円錐の先端と、胸に当たる部分には巨大な瞳。 胸にある二つの瞳の上には三つの顔。全身から伸びる黒白の触手が五本。全身の基本カラーは、淀んだ桃色。 かつて、メディウス・ロクスだった時は比べモノにならない醜悪な姿だった。 見るだけで言いようのない不安を増大させ、まるで調和の取れていない肉体はまさに『不完全』。 「私はあなたを取り込むことで完全となろう……そして世界とも交わり究極となろう……」 「もうすぐ生まれる……完全なる世界……何故……その完成を待てない……?」 言葉というお互いの認識を深めるための道具を用いながらも、それは会話ではなかった。 お互いの目的、理由をただ呟くばかりの意味のない単語の羅列にすぎない。 当然だ、なぜなら両者とも人間ではないのだから。 他者という存在を本当に理解する気などどちらにもない。 故に、この衝突は必然。 無から有を、大量の骨の形をしたナニかをノイ・レジセイアは精製し、次々に射出。 しかし、デュミナスはそれを空間に穴をあけることで回避した。 同時にデュミナスは腕の質量を増大させ、両側からノイ・レジセイアを挟みこもうとする。 だが、その手よりも大きな手が全体を包むように顕現。ウアタイル・スクラフトが、デュミナスの腕をいとも簡単に防ぐ。 ないものを、あるものに。小さなものを、強制的に大きなものに。物質が伝導する空間自体を捻じ曲げ、攻撃を変える。 白き魔星を揺るがす二つの超存在の激突は、もはや人間の理解を超えたものだった。 そんな足元を這う、二つの人型。 自分の身長の二倍はあろうかというサイバスターを抱え、よたよたとブレンが地を這う。 元々、目もくらむ閃光で一時的に昏倒していただけのアイビスは、すぐに目を覚まし動くことができた。 しかし、カミーユはそうもいかない。意識こそあるものの、限界を超過してしまったことは間違いない。 機体を立たせるだけで精一杯。闘うなどできそうにもなかった。 「くそっ、くそっ……ここまで来て……ッ!」 カミーユの声は、悔しさで震えていた。アイビスは、無言のままブレンに動くように意思を飛ばす。 アイビスにも、分かる。あの主催者とAI1が、どれだけ桁違いの力を持っているのか。 もし、あのカミーユのコスモノヴァが決まっていれば勝てたのかもしれない。 アイビスは、あの光で気を失ってしまった。 そのため細かい顛末はわからないが、ノイ・レジセイアが無傷である以上いなされたということだろう。 間違いなく、こちらの最大最高の力であるカミーユの一撃すら通用しない。 ブレンのエネルギーが少なく、 サイバスターのほうはと言うとエネルギーだけでとどまらずカミーユの自身の精神まで限界近い今、勝てる見込みはほとんどない。 「ロジャーと一旦合流しよう。それに、あの化け物がお互い傷つけ合って倒れてくれれば……」 それしか勝ち目はない。こちらの持てる力すべてを結集させ、双方、もしくは生き残った片方が弱ったところを叩く。 最終的な勝利のための戦略的撤退と言えば聞こえはいい。しかし、事実上の敗走であることを二人は理解していた。 アイビスは、一度だけ振り向いた。そこには、デュミナスと名を変えたAI1の威容。 ユーゼスが育て、生みだした怪物。それが、今はこうやって自分たちが逃げる盾になっている。 ノイ・レジセイアと直接向かい合って闘える数少ない戦力になっている。 味方とは言い難いが、認めなければいけない事実。 自分たちの敵であり、自分たちを殺し、AI1を成長させようとしたユーゼスの遺したものが自分たちを守り、闘っている。 両者ともこちらなど見ていない。意識を向ける必要もない、殺す価値すらない、そうきっと思っている。 サイバスターがスラスターを吹かせるのに合わせて、ブレンが浮き上がる。 このまま、ひとまず脱出できるとアイビスは考えるが、 「いかせはしない……」 デュミナスの4つある手の一つから、濁った桃色の光球が放たれる。 それはブレンとサイバスターの前に着弾するも、爆発することはなかった。 しかし、 「……な」 光球は見る見るうちに巨大化し、球の表面に人型の影が浮かび上がる。 急いで逃げようにも、登り口は球の後ろ。素通りすれば、この球に背中を見せることになる。 もしも何か起こったときに対処しなければならないという気持ちがアイビスの足を止めてしまった。 球の中から、長大な爪が姿を現した。球をばらばらに引き裂き、中にいる自分を外へと産み落とす。 「あの姿になる前の……メディウス・ロクス……ッ!」 カミーユが絞り出すような声で目の前に現れたそれの名を呼んだ。 確かに、それはアイビスの知るメディウスによく似ていた。ただ、大きさはアイビスの知るそれの半分で、下半身も人型のものだ。 胸の中心にあるべき深紅のコアはなく、そこにはぽっかりと空洞が広がっていた。 「サイバスター……その力は、あのお方が欲した完全へ至る力の一つ。逃がすわけにはいかない。 『私』に代わり『かつて私』だった『私』があなたを手に入れる」 目の前から聞こえてくるのは、AI1、いやデュミナスの声。 「狙いは俺か……!」 「あなたではない。あなたの乗るサイバスターこそが、私の求めるもの」 デュミナスの分体となったメディウス・ロクスが肘から伸びた角を投擲する。 思考が追いついていないアイビスを突き飛ばし、カミーユのサイバスターがディスカッターで受け止めた。 だが、サイバスターはあっけなく吹き飛ばされる。どうにか空中で姿勢を立て直すのがやっとだ。 ふいに、カミーユがせき込んだ。通信でカミーユを確認すると、その口からは血が滴っている。 「カミーユ!?」 「あいつの狙いは俺なんだ。先に行ってくれ」 「でも……ッ!」 「早く行けよ! やらなきゃいけないことがあるんだろ!」 荒い息をつき、胸を抑え、それでも目だけは不屈の意思を宿して。歯を食いしばってアイビスにカミーユが叫ぶ。 サイバスターのほうが本来戦闘力は上だが、今やカミーユもサイバスターも限界だ。先程のうち打ち合いだけでも見てとれる。 だから、本来アイビスが前に出てどうにかしなければならない。だが、カミーユはアイビスに先に行くように促している。 あのメディウス・ロクスがカミーユ、というよりサイバスターを狙っているのはわかる。 おそらく、アイビスだけが行く分には邪魔はしないと読んだのだろう。 「早く!」 カミーユの声にせかされ、アイビスはバイタルジャンプを使い一瞬でメディウスの背後に移動する。 メディウスはこちらを追撃する様子はない。どうやら、本当に狙いはサイバスターだけのようだった。 ブレンがソードエクステンションを構え、その背中へ照準を合わせ、引き金を引いた。 しかし、それはメディウス・ロクスを中心に発生した球形のバリアによってあっさりと阻まれた。 今の自分では力になることができない。そう認識してアイビスは唇をかんだ。 「すぐに戻るから! それまで……」 「分かってるさ、こんなところで死んでたまるかよ」 サイバスターとメディウス・ロクスの激突を背に、ブレンはどこまでも続く暗い縦穴を登っていく。 その先に希望があることを信じて。 →ネクスト・バトルロワイアル(2)
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第二次黄金戦争/ステージ1イベント15 ステージ1 イベント15 I=Dの量産 作業期限 1月13日16時まで 物語背景 各国はテスト飛行も終わってないうちからI=Dの量産を前倒しして開始しはじめた。 課題 各国は以下の課題を達成して資源を消費、I=Dを量産することが出来る。 増えた分のI=Dは保有リストに加えておくこと。 I=D生産の方法: 1.市場から調達する。 2.次のアイドレスにアイドレス工場がある場合、これを用意することで資源1万tにつき1機のI=Dを製造できる。製造宣言はここで行うこと。 アイドレス工場 リクエスト:イラスト3点+設定文章 イラスト一点につき4時間です。設定文章は2000文字程度(2時間)とします。 名称 ・アイドレス工場 要点 ・工場・乗っているライン・工場で働く国民 周辺環境 ・工業地帯・工業に向いた地形 評価 その藩国はI=Dを量産できる 次のアイドレス ・I=Dの改良・大型I=D・原素子(ACE)&BALLS・造船所 提出 同ブログコメント 結果 ゲーム結果:イベント15 I=Dの量産 戻る→儀式魔術/第二次黄金戦争/ネクストステージ
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儀式魔術/第二次黄金戦争/20週目 目次 前へ 次へ 5月9日、着替えについてのお知らせ更新 5月10日、資格試験結果発表更新 5月8日 取引一覧更新 アイドレスチェック&新兵器データ更新 イベント80 広島侵攻(緊急情報付き) 更新 イベント80 広島侵攻 ”源を助けに”アシタスナオ ”小太刀さんを助けに”ながみ藩王 ”後輩達を助けに”悪童屋 ”なっこちゃんを!”城華一郎 それぞれ国元で残したコメントから 01507002 作業期限:2007年5月11日23時まで。 物語背景: 広島へのリンクゲートが開かれた。 輸送艦を秘密裏に建造していた羅幻王国の際立った先見の明、土場藩国の内助の功(?)により輸送艦が用意され、完全戦力とまでは言わないまでも戦力派遣が出来るようになったのである。 課題: プレイヤー団を代表して以下の物を作成、提出せよ。 1.輸送力の確定リスト (広島へ派遣する輸送機器リスト) 2.輸送品の確定リスト 3.輸送人員の確定リスト (注意):輸送された人員はこのターンの最後まで本国に戻って来れません。また、着替えおよび広島以外での出仕、指揮も出来ません。ただし、現在 進行中の吏族チェックについては、これを無視できます。 4.広島への供出物資リストおよび国庫反映 注意)船の運航に必要な物資は本国から出して良い。 緊急情報:既に同地は危機的な戦闘状況にあり、一部のACEの死亡は11日0時に確定する。救出する場合は”タマハガネ”1隻を緊急輸送に使うことが出来る。 この場合は40人/機、9万tまでの物資を使って突入せよ。この突入作戦での勝率は極めて低いが0ではない。 ○提出は芝村にメッセ上からどうぞ。 5月12日、イベント81 偵察機迎撃戦更新 イベント81 偵察機迎撃戦 ”敵、30機以上” ”来たか……” FVBでの会話 11507002 締め切り:2007年5月13日23時(迎撃作戦、編成) 締め切り:2007年5月14日23時(施設) 物語的背景 テラを巡る軌道に乗った敵、1400隻の艦隊は陣を組んで睨み合いに入った。とりあえずは互いに戦力を図る段階である。 この時点で敵は今までと違う感覚があった。 敵は偵察部隊を送り始め、ニューワールドはこれへの対策を立てることになる。 課題(広島にある部隊、物資は参加、使用出来ません) プレイヤーの代表者は以下を提出してください。 1.地表50kmを時速2万kmで飛ぶ偵察機(および偵察行動)をどう対処するかの作戦 (敵は32機を投入してくる) 2.1の作戦を実行する為の提出物(エントリーリスト) 3.各国の防空システムを構築出来ます。 (独自兵器開発と同じように、設定、イラストをセットで作成してください) 資金10億 防空機関砲システム(4箇所) 資金20億 防空ミサイルシステム(4箇所) 資金30億 防空レーダーシステム、指揮所 資金40億 地下への工場移設(3箇所) 資金50億 防空装備の開発(既存の機体の改修) 5月15日、E81、新型装備のお知らせ更新 お知らせ:集団職業4習得の受理更新 ゲーム結果:イベント80 広島侵攻(前哨戦)更新 偵察機迎撃作戦の実施時間更新 EV81:偵察機迎撃作戦は5月15日の23時から開始します。 時間になったらメッセ上で接続してください。 なお、この作戦でいくつかの藩国が滅亡する可能性があります。 戻る→儀式魔術/第二次黄金戦争
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帝國化を目指すまっくろ島と、それを阻止する義務を負う当時帝國島のN島を中心にT.2887に起こった戦争。 参戦島は14島、総計人口被害は1663万1100人に上り、史上最大の世界大戦である。 経緯 [#hee136c3] T.1900にN島が帝國となり、世界は第3シーズンへと進んでいった。 この第3シーズンにおけるポイント制度ではまっくろ島は、完全に他の追随を許さないものであった。 まっくろ島は前人未到の600万人を突破し、財政状況も平均水準の3倍を維持し、まさに最強の島であった。 まっくろ島は人口面だけでなく、弱小であった軍事力にも手を入れ、防衛衛星を打ち上げるまでに至った。 こうしてまっくろ島は、2100、2200ターン杯獲得、帝國化回避のため2300を譲り、首位復帰し2400、2500を獲得後、再び2600を辞退し、さらに2700、2800と、第3シーズンだけで6回ものターン杯を獲得するに至った。 そしてついに2800ターン杯獲得後、まっくろ島の2度目の帝國化宣言が出され、第二次まっくろ島帝國化戦争が勃発した。 戦闘経緯 [#j23aee8d] ※宣戦布告の括弧内は戦略発動時期 T.2879 [#l8c3f95e] N島とエコーズact3島、まっくろ島に宣戦布告(2888) まっくろ島、N島に宣戦布告(2888) T.2885 [#a3b22982] ぱられる島と水底島、エコーズact3島に宣戦布告(2888) T.2886 [#ec49b160] 竜宮島、まっくろ島とN島に宣戦布告(2888)及びエコーズact3島に宣戦布告宣戦布告(2890) ◇水晶◇島、エコーズact3島に宣戦布告(2888) 水晶、クレタに宣戦布告(2893) 暗黒島、まっくろ島に宣戦布告(2888) T.2887 [#s5bbd367] まっくろ島が宣戦布告を破棄し、N島に奇襲攻撃開始。同島の防災型食物研究所をレーザーで破壊。 T.2888 [#d4296c76] エコーズが自ら105万5700人の人口を削減し、3位に順位を下げる。 グリード島がまっくろ島に宣戦布告(2890) T.2890 [#r09c2765] エコーズがクレタ・モラッタ島、ぱられるに抜かれ3位から5位に転落 水底島がN島に宣戦布告(2894)及びグリード島に宣戦布告(2892) T.2891 [#wd3b52ce] エコーズが8位転落 ぱられる島がN島、クレタ、暗黒島に宣戦布告(2893) 水晶島、クレタに宣戦布告(2893)、クロード島に宣戦布告(2893)さらにN島に宣戦布告(2895) 水底島がN島とクレタに宣戦布告(2894) クロード島がまっくろ島に宣戦布告(2895) Another Moebius島がまっくろ島に宣戦布告(2894) T.2892 [#fc044456] まっくろ島4位転落 まっくろ島、Another Moebius島に宣戦布告(2894) T.2893 [#f7ed844f] Another Moebius島、宣戦布告を破棄し、まっくろに攻撃 水底島、クロード島及びAnother Moebius島に宣戦布告(2895) T.2894 [#ca8d124b] ぱられる島がクロード島、グリード島及びAnother Moebius島に宣戦布告(2896) 水晶島が、マレーシア諸島、グリード島及びAnother Moebius島に宣戦布告(2897) T.2895 [#t53a473e] ブラボー島がまっくろ島に宣戦布告するが、正当な宣戦布告にあらず(2896) 水底島がマレーシア諸島及び暗黒島に宣戦布告(2897) 水晶島が、マレーシア諸島への宣戦布告を撤回し、戦闘回避を提案 T.2896 [#d950ee10] マレーシア諸島、声明を発表し水晶、水底との戦闘回避 T.2898 [#g5e91a74] まっくろ島、N島に再度宣戦布告 ぱられる島、マレーシア諸島に宣戦布告(2900)その後声明発表。 水底島、マレーシア諸島に宣戦布告(2900) T.2899 [#be577b9d] N島、滅亡する。 T.2900 [#l7d09cb2] 帝國化戦争終戦 停戦命令発令 まっくろ島の帝國化は失敗する ぱられる島がマレーシア諸島を逆転し、ターン杯獲得 結果 [#r1f8d15a] まっくろ島の帝國化はまたも失敗に終わった。 しかし、現帝國のN島は、戦闘によって滅亡し帝國を剥奪された。 事実上の戦勝国はエコーズact3島率いるム~さん陣営となった。 一方まっくろ島の帝國化に加担したMonster Busters加盟島は敗戦国となり、 MB同盟は解散した。 戦後処理 [#l42725f6] 終戦後、マレーシア諸島の首都ファイレクシアで、ファイレクシア会議が開かれ、戦後処理が行われた。 一般報道 [#g95448ae] 戦時中は、マジョルカ国際通信(ECIM)が世界情勢の報道を行った。 これらは、同局のバックナンバーECIM 01より参照できる。 関連記事 [#la4265e2] まっくろ島帝國化戦争